40 DVD
「ぶ、ぶぇ~、感動したっすぅ」
借りてきたDVDを観終わった。五月女は号泣していた。
「な、なんでヒロインは死んじゃったんすか~。悲しすぎるっす」
「病気だったからだろ」
「そんなの分かってるっす! 理由を問うたわけじゃないんすー!」
五月女はティッシュを取って鼻をかむ。こいつの周りには丸めたティッシュだらけ。誰が片付けると思ってやがる。
「うぅ、涙が止まらないっす」
借りたのは純愛の映画だ。大学で知り合った二人が仲良くなっていき、でも最後はヒロインが死ぬってやつ。残された主人公はそこで愛に気づいて涙を流す。
「まぁまぁ面白かったな」
「三日尻君の感受性はイカれてるっす。この冷徹男ー! っす!」
丸めたティッシュ投げてくんな。手でキャッチするとネチャっと濡れているティッシュをゴミ箱に入れて俺は五月女と向き合う。と、五月女が苦しみだした。
「う、うわー。く、苦しいっすー」
「……おう」
「自分はもう死ぬっすー」
辛そうなフリをした声をあげてうずくまる五月女。あれか、映画のシチュエーションを実際にやってみたいってことか。
「も、もう駄目っす。……ほら」
五月女はもがきながらチラッと俺を見て何かを促してくる。……はいはい。
「おいっ、大丈夫か!?」
俺は割と本気で演技する。ちょっと恥ずかしいが自分の部屋なので問題ない。
「み、三日尻君……」
「なんてことだ脈が……! し、死ぬな五月女っ、生きるんだ!」
「……もういいっす」
「な、何を」
「もう十分の幸せをもらったっす。三日尻君から、たくさんの幸せをもらったっす。だから、もう」
「何言ってるんだよ! お、俺はやっと気づいたんだ。俺はお前のことが……」
「三日尻君、今までありがとうっす」
「五月女ーっ!」
目を閉じていく五月女が音楽プレーヤーを取り出す。流れる、なんかそれっぽいバラードの曲。
……いや、これ何? 俺ら真っ昼間から何やっているんだろう。
「最後に」
あ、まだ生きていたのね。
「三日尻君と手、繋ぎたいっす」
「あぁ。ほら、繋ごう」
茶番は続くらしく、俺は五月女のそばに寄ると手を握る。柔らかく温かい五月女の手。とても死ぬ寸前の手じゃないです。
「三日尻君の手、あったかいっす」
「そうか」
「三日尻君……」
手を繋ぎ、目が合う。演技だけど五月女の潤んだ瞳が必死に俺を見つめてきて、自然と手を握る力が強くなる。
「五月女……」
「み、三日尻君……」
部屋に満ちる曲のムードもあってか、なんかマジで映画のワンシーンにいるみたいな気分。倒れた五月女の体を起こし、彼女のサラサラな髪を撫でて、
「ずっと愛している。五月女のことが好きだ」
指を五月女の顎に当て、ゆっくりと近づいていき、そして唇と唇が……
「ぁ、あ……っ、だ、駄目っすー!」
「ぶぼぉ」
五月女の力強いパンチが鼻柱にヒット! は、鼻がぁ!? 折れた、これは折れた!
「な、何しやがる……!?」
「だ、だだだだだ駄目っす! ち、チューはやりすぎっす!」
五月女は起き上がると超スピードで壁際に逃げる。髪は逆立ち、顔は真っ赤で目は大きく見開いていた。
「悪かった。演技に熱が入ってつい」
「その軽いノリはなんすか! 今、き、き、き、キスを……あうぅぅ!」
「あー……いやマジで悪かったよ」
確かにあのままだと本当にキスしていたかもしれない。いくらノリとはいえキスはマズイ。ごめんな五月女。
「ま、まだ早いっす! 急に来るのは反則っす!」
「お、落ち着け。ティッシュ連投してこないで何これすごいネチョネチョ」
「そ、それに……あの……うぅ」
「ん?」
「す、すす、好きとか……ううううううっ~!」
五月女は奇声を上げるとベッドへ向かって走り出して一気に飛び込んだ。どうした情緒不安定だぞ。
「自分がいいよと言うまで三日尻君は外にいてくださいっす」
「なんでだよ」
「いいから! っす!」
「お、おす」
有無を言わせない五月女の眼力にたじろいでしまい、俺は大人しく部屋を出た。扉を閉めた途端、中から鍵をかけられる。えー、ここ俺の家なんですけど。
「まぁ悪いことしたし、従っておこう」
五月女は部屋で何をしているのやら。わけも分からぬまま扉を背にしてため息つく俺であった。




