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36 安土桃香

 遂にこの日がきた。


「どうぞどうぞ。汚い部屋ですがどうぞどうぞ!」


「お邪魔します」


 艶やかな黒髪をなびかせて、昨年度ミスコン優勝者の安土さんが俺の部屋に来たのだ。すごい美人、顔が小さい。さすがお兄様!ぐらい美しい。それはすげぇ。


「ごめんなさい、突然メールして」


「かまへんかまへん!」


 緊張のあまりエセ関西弁になった。関西の人に怒られちゃいますやん。


「あー、その、俺達って初めまして……だよな?」


 去年の学祭のミスコンで優勝した安土さんは大学内でも学外でも有名人だ。そんな安土さんと俺の接点はない。学年は一緒でも学部違うし。


「去年の後期で同じ講義を受講していました」


「マジ?」


「三日尻君が筆箱と間違えてテレビのリモコン持ってきたの面白かったです」


「マジ!?」


 いやそんな記憶一切ないけど!?


「あ、それはミュータント鱈野原君だったね」


 間違えちゃった、と恥ずかしそうに笑う安土さん。あー、いや人違いは仕方ないよ。けど、ミュータント鱈野原って誰? 何その唯一個性感凄まじいセンス。


「ま、まぁ改めて自己紹介でもするか。俺は三日尻光一。よろしく」


「安土桃香です。趣味は気に食わない人に呪文を試し撃ちすることです」


 そっか、よろしくー……いやいや? 趣味はお菓子作りです、みたいな感じに言ったけど? なんだよ呪文って。


「呪文って……その、魔法的な?」


「うん。私頑張って開発したの~」


「私頑張ってデコしたの~、みたいに言われても……」


「あはは、三日尻君面白いですね」


 あなたの方が数倍面白いと思うんですが。

 ……あれ、なんか、嫌な予感がしてきた。俺の心に一抹の不安。もしかして安土さんは……変な子なのでは?


「いやいやそんなことない。ミスコン優勝者だぞ。こんなにも清純なんだぞ」


「? どうしたのですか」


「な、なんでもないよ。そうだ、何か飲む?」


「パペロパペロニャンダーサイクル!」


 え、え、え、えっ? 今の何。もしかして呪文? 気に食わない奴に試し撃ちするんだよね、俺が気に食わなかったの!?


「首から長い毛が生えて周りからクスクス笑われる呪文をかけました」


「くだらないってレベルじゃねーぞ!?」


 だ、駄目だ。確定した。安土さんは……変な子だ。こんなに美人なのに頭が残念な人だ!


「三日尻君のツッコミって耳障りだよね~」


「ナチュラルに毒吐くのやめて。割と心えぐる猛毒だし」


「あ、ツッコミってのはボケとツッコミの意味で、そ、その、いやらしい意味じゃないよ?」


「いや分かってるから。お願いだから下ネタを潜めた発言はしないで」


 ミスコン優勝の超美人が……あぁ、なんてことだ……。


「そうだっ。この前ね、蹂躙するバーバリアン内山君が講義中に薬用シャンプーの詰め替えを始めてね~」


 意気消沈する俺のことなんて露知らず、安土さんの意味不明トークは盛り上がっていくばかりであった。

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