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35 学内一の美女

 夏休みがもうすぐで折り返しとなる頃。いつものように俺の部屋でたむろする玉木と垂水。俺がアパートに戻ってから一週間後にはこいつらもこっちに戻ってきた。もっと地元でゆっくりして良かったんだよ? なぁ?

 ちなみに今は玉木が一人で神経衰弱をして、垂水はそれを観戦している。


「たぶんここのはず……ふぅ、揃った」


「ほほぉ、難しい二択だったが上手く捌きました玉木選手。ここでワンペア作ると作らないでは今後の戦況に大きく関わりますからね」


 こいつらは馬鹿なんじゃないかと、俺は思います。なんで神経衰弱をソロプレイして、それを観戦している奴がいるんだよ。二人いるなら二人で遊べ。


「おい三日尻、お前も玉木の試合を観戦しないか?」


「せめて神経衰弱に参加させろや」


「駄目だ。これは僕の戦いだから」


「だったら自分の家でやれよ。今すぐ出ていけ」


「一人は寂しい。誰かに見てほしい。でも参加はしないで。適度に僕にかまって上手くいったら褒めてほしい」


「結構な注文量だなおい」


 まぁこれなら俺に被害はないから放置しておくか……ん、メールがきた。


 送り主は……って、はい……?


「安土さんからメール来た」


「「は?」」


 俺が安土さんと呟いた途端、玉木はトランプを落とし、垂水がそれを破る。すいません垂水君、人のトランプ破るのはやめてください。ぶん殴るぞ。


「おいおい? へいへい? ミカジどーゆーことだい」


「なんでミスコン受賞者の安土桃香(あずちももか)さんから連絡が来るのかな?」


 さっきまで静かなる熱戦に身を投じていた二人が俺の元へとジリジリ迫ってくる。目が据わって無表情の顔が怖い。


「バイトは大学通りの喫茶店。部活は吹奏楽部」


「安土さんが働く日の喫茶店は行列ができ」


「吹奏楽のコンクールに安土さんが出ると市民ホールは満席」


「微笑む姿は素敵で可憐」


「パンチラや胸チラ写真は数十万で取り引きされると言われる」


「「あの超美人の安土桃香さんから!?」」


 お前ら仲良いね。なぜ説明口調だったのか分からないし、なぜ安土さんが俺にメールを送ったのかも分からない。つーか連絡先交換した覚えがないんですが。


 今二人が説明した通り、安土さんは学内一の美女だ。アイドルにも負けず劣らずの美貌の持ち主で、彼女の為に来年度の受験者が急増すると噂される程。マジかよ。


「なぁ玉木」


「どうした垂水」


「こいつを始末すれば」


「僕らが代わりに」


「安土さんとメールが出来る」


「それはもう」


「やるしかない」


「殺るか」


「せーの」


「「メラミ!」」


 二人揃ってメラミかよ! もっと上級魔法使えや!

 と、二人が飛び上がって俺に襲いかかってきた。何これバトル展開?


「キエエェェ!」


「グオオォォ!」


 玉木の突進を躱し、垂水の右フックを左腕で受け止める。


「その携帯を寄越せぇケツ野郎ぉ!」


「黙れ腹垂水ぃ、たるんだ腹を引っ込めて出直してこいボケが!」


 迫る垂水の両手をなんとか防ぎ、均衡していると、


「後ろがガラ空きだよ!」


 玉木が後ろから羽交い絞めしてきた。ふざけ半分とかじゃなく、本気で力を込めて。き、金玉木ぃ! お前ガチじゃねーかホント空気読めないアホだなおい!


「今だ垂水、携帯を奪え」


「任せろ~!」


 一対二、抵抗虚しく俺の携帯は垂水に奪われた。


「うおぉメール読んでやるぜぇ!」


「イェーイ!」


「音読するぜぇ!」


 ちょ、やめ、玉木離せぇ!

 だが玉木は腕をへし折る勢いで絞め上げる。俺は動けず……ぐっ、俺もまだ安土さんのメール読んでねぇんだぞ!?


「えーと何々? ……『安土桃香です。良ければ今度お会いしませんか?』だって……」


「……え、え」


 読み上げた垂水は固まり、玉木は震える。

 数秒の沈黙、垂水が目を見開く。


「あ、安土さんからのお誘い……あ、あの安土さんから」


「おい、垂水?」


「羨ましい……えっぐ、っ、羨まし過ぎるよぉ……!」


 垂水は泣きだした。その場に崩れて大声を上げる。な、なんか哀れだ……。


「垂水っ、卑猥な言葉を送信しよう!」


「お前はホント加減を知らないな金玉木!」


「おっけーぐーぐる! 安土桃香さんに返信! うんこ! ちんこ! 送信!」


「なんつーこと言いやがる!?」

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