32 合コン2
合コンの練習はまだ続く。やる気をなくした俺と戦意喪失の垂水とは正反対に玉木のテンションは上がっていく為、終わる気配がないのだ。
「趣味は五十メートル走、特技は百メートル走ですっ」
「趣味と特技の違いは何なの?」
「何言ってるのさ~、距離が違うでしょ!」
喋れない垂水より、意味不明なことを喋る玉木の方がタチ悪いことが分かった。合コンの練習だってのに、俺は以前やった面接の練習の時と同じ心境に陥っている。頭が痛い。この二人といつか合コンする女子が気の毒で仕方がない。
「と、ところで~、玉木君ってカッコイイよねっ」
「え、そうかな~?」
玉木はデレデレと嬉しそうに笑う。まぁ実際はフツメンなのだが会話の流れを作る為に褒めよう。キャバ嬢ってこんな気持ちなのかな。
「絶対モテるでしょー?」
「そんなことないって~。僕より垂水の方がモテるよ。ね、垂水」
これには大層驚いた。なんと玉木が垂水を会話の輪に引っ張ったのだ。アホの玉木に誰かを立てるという手腕があったとは……!
おい垂水、チャンスだぞ。この流れで会話に入ってこい。さあ!
「え、え……そ、そんなことないです」
垂水いぃ!? 玉木の見事なパスをなぜ受け取らない!? 照れ笑いして軽く否定するだけでもいいんだよっ。なぜそれが出来ない。つーか目を合わせろや、いつまで泳いでいるんだよ!
くっ、ここで女性役の俺が黙るとまた無言タイムになってしまう。さらに垂水へ切り込んでみるか。
「え~、垂水君もカッコイイじゃん~。そのオレンジっぽい金髪チョー似合っているよ」
「……うす」
「じ、自分で染めたの? それとも美容室?」
「うっす……」
駄目だこいつ。まともな返事をしない。お前は樺地か。
あのさぁ、いい加減にしないと俺キレるよ? お前らが言うから付き合ってやっているんだぞ。女子みたいにキャピキャピして高い声出しているんだからな。チョーしんどいんですけどー!?
「そうだっ、王様ゲームしようよ!」
「わ、私ちょっとお手洗い行ってくるねー」
これがもし本当の合コンであっても、この辺で女子は席を外すだろう。俺は頭を押さえながら部屋から出る。はぁ、一息つけた。
と、廊下を歩く母親から「早く出ていけよ」といった目線を食らう。この家に俺の居場所はないのかチクショー……。
「いやー、テンション上がらねーわ。なんだよ玉木、可愛い子いないじゃんか。マジねーわー」
……扉から聞こえてくる声。垂水の声だ。いつも通りの口調で、いつも通りの粋がった言い方。
「え、結構可愛い子揃えたつもりだよ?」
「全然可愛くねーよ。あんなんじゃやる気起きないわ。あー、めんどくせー」
ブチッ。こめかみの裏で何かが切れた音がした。俺はドアを蹴り飛ばすと、ヘラヘラ笑って調子乗っている垂水のたるんだ腹に向けて、
「調子乗ってんじゃねーぞクソ陰キャ野郎がぁ!」
「げぶぶ!?」
強烈な足蹴りを放ってやった。垂水は顔を歪めて嗚咽を漏らし、壁へと吹き飛んでいく。
「あぁん? テメェ今の態度はなんだ」
「お、おぇ……け、蹴らなくても……」
「本当の合コンだったら女子全員から集団リンチされているところだよ。足蹴りだけで済んで良かったなクソ腹垂水ぃ」
「ご、ごめんなさい」
「帰れ。今すぐ俺の部屋から全力で出ていけぇ!」
「は、はいぃ!」
涙を流す垂水は部屋から出ていく。足がもつれながらも必死に走って逃げる。その姿はただの因果応報。チョーウケるんですけどー。
「おっ、いいね。僕も走るよ!」
アホの玉木は軽快に垂水の後を追う。あれは趣味なのか特技なのか、そんなのどっちでもいい。
二人が帰っていき、部屋に残された俺は盛大なため息を吐いて天井を見上げる。
「……アパートに戻ろ」




