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26 フェス

 室内に響き渡るロックの重低音。見れば大型スピーカーがドンと置かれていた。

 んー……おかしいな、俺の部屋にこんな物はない。となれば誰かが持ってきたってことだ。

 その答えはすぐに分かった。俺は我が物顔でヘドバンする垂水の頭を叩く。


「何してんだ腹垂水」


「いたっ。腹はたるんでいるが心はスマートだぜ!」


 意味の分からんことを言うな。心がスマートって、それ訳すと心が狭いってことだからね。なんで自信満々なの?


「で、何をしてるんだ」


「今度フェスに参戦する予定なんだ。だから今のうちから聴き込んでおこうと思ったわけさ」


「自分の部屋でやれよ。こんな大きなスピーカー持ってくるの大変だっただろうに」


「心配するな。レンタカー借りて運んだから大丈夫だったぜ!」


 俺の部屋に持ってくる為だけにレンタカー借りたの? だからなんで自慢げなんだよ。


「金の使い方間違っているだろ……」


「フェス楽しみだぜ!」


 話聞けよ。音楽聴く前に家主の話聞けアホ。

 ノリノリでルンルンな様子の垂水。俺はその周りに積まれたCDを手に取る。


「ふーん。アーティストのラインナップから察するに、お前が行くのは県内のフェスか」


「お、三日尻分かるのか?」


「俺もそのフェスに行くからな」


 このフェスは県内で開催され、車を使えばホテルを取る必要もなくて行き来が楽なのだ。しかもかなり大規模なフェスであり、世界的に有名なアーティストも出演する。

 だから超楽しみにしているよ、五月女が。ここ最近のあいつ超元気。


「三日尻は誰かと一緒に行くのか?」


「あぁ」


「マジかよ。三日尻に友達がいるとはな」


 ぶっ殺すぞ。


「まっ、学科の男友達とかだろ。何人で行くんだ?」


「二人」


「二人ぃ? 男二人でフェスかよ~」


「……」


 マズイな。ここで俺が「男友達ではなく女子と二人で行く」と言えば間違いなくキレる。

 ポアダポアダ!と暴れられるのは困るし、テキトーに合わせておくか。


「虚しい奴だなおい〜」


「そ、そうだな」


「あっはっは〜! ……まっ、俺は一人なんだけどね……」


 俺を小馬鹿にしていた垂水は途端に暗い表情を浮かべ、寂しげにため息をつく。

 おいおい? 勝手に落ち込み始めたぞ!? なぜ自分で自分を痛めつけるんだよっ。


「ひ、一人でも良いと思うぞ。周りに合わせず好きなように見て回れるじゃん」


 思わず俺も垂水をフォローしてしまう。

 まぁ実際のところ一人で良いじゃないか。一人ならではの楽しみ方ってのもあるだろ? こうやってレンタカー借りてスピーカー運んでCD借りて予習してさ、全てはフェスを楽しむ為だろ? それで良いよ、それが最高だよ。バンドマン風に言えば、お前ら最高かよ!


「三日尻、一緒に行かね……?」


「えー……」


「頼む! やっぱ一人は寂しいんだ……」


「……まぁ良いけどさ」


「マジ!? あ、ありがとぉ~!」


 涙を浮かべた垂水が満面の笑みで抱きついてきた。俺は即座に引き剥がして垂水のたるんだ腹にヘドバンを打ち込む。ポアダポアダ!


「めがらば!?」


「で、俺と友達は2daysだけど垂水は?」


 フェスは二日間開催され、チケットの種類は一日券と二日券がある。

 俺と五月女は二日券。五月女が先行抽選でチケットを手に入れた。当落発表の時のあいつは喜び狂っていたなぁ。


「俺も2daysが良いけどチケット買えるかな~」


「……ん? おい待て」


「何?」


「え、まだチケット買ってない……?」


「そうだけど?」


 ……きょとんとしているところ悪いけどさ、


「チケットはもう完売してるぞ」


「……え!?」


 有名なフェスだから県外からも大勢人が来る。先行販売からずっと応募してやっと当選するかしないかってレベルだぞ。

 開催まで二週間を切った今、チケットは一日券も二日券もソールドアウト。

 そんなことも知らず、こいつは……。


「え、垂水……チケットないのに盛り上がっていたのか……?」


「……」


「レンタカー借りて大型スピーカー持ち込んでCDもたくさん借りてきたのに、フェスは行けないのか……!?」


「帰る」


 スッと立ち上がった垂水。その顔は真っ白で目は虚ろ、魂が抜け落ちてしまっている。寂しみで哀れな垂水とは対照的にスピーカーから流れる大音量のミュージック。


「お、おいスピーカーは?」


「三日尻にやる」


「CDだって……」


「代わりに返却してくれ。スピーカーもCDも、もう俺には必要ないから……」


「た、垂水」


 しかし俺に垂水を止めることは出来なかった。

 あの儚げな顔の、触れたら消えてしまいそうな垂水に、どんな声をかけてよいか分からなかった。

 垂水は足を引きずりながら帰っていった。あいつ……今からレンタカー返しに行くんだろうな。


「やっほーっす。って、うおおっなんすかこの大きなスピーカーは! すげぇっす! 三日尻君最高かよ、っす~!」


 その後やって来た五月女はスピーカーを見て嬉しそうにピョンピョンと跳ねていた。垂水、お前の分までフェス楽しんでくるよ……。


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