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23 もうすぐ夏休み2

「外に遊び行くのも良いっすけど、自分はやっぱ快適な三日尻君の部屋でのんびり過ごしたいっす」


 五月女はテーブルの上にぐでぇと伸びきり、だらしない声を出す。

 快適と言うがその分だけ電気代がすごいことになっているんだからな。あとちゃんと勉強しなさい。


「でも冷房の効いた場所ばかりにいるのは体に良くないと思う」


「やけに主張するっすね」


「五月女、夏休みは部屋じゃなく外で遊ぼうぜ」


 いつも部屋でダラダラしている俺が言っても説得力は皆無だが、今回ばかりは声を大にして説得する。

 その甲斐あったのか、五月女は起き上がるとテーブルに両肘をついて「んー?」と嬉しそうに声を漏らしてニコニコと笑う。


「どうしたんすか〜? 自分と遊びたいんすか~?」


「いや単純に引きこもり過ぎだから外の空気を吸いたいだけ」


「ぶぅー、三日尻君はつれないっす」


 頬を膨らませ、眉をひそめる五月女。亜麻色の毛先を指でクルクルと遊ばせて不満げな様子。

 いやまぁお前と遊びたいのもあるよ。お前と一緒にいたい。何これ愛の告白かな?


「で、行くとしたらどこすか?」


 どこに行こうか、だって? そんなの決まっているじゃないか。

 夏と言えば、と聞かれて百人アンケートを取れば間違いなくランキング上位に入る場所がある。


「それは当然……海だ!」


 俺は立ち上がり、力強く握った拳をマイク代わりにして叫ぶ。

 あ、五月女がポカンとしている。でも気にせず続けよう。


「夏に海、それは大学生がしなければならないこと。夏休みを充実させるには必要不可欠、いわば必修科目!」


「別に必修ではないと思うっす」


「ええい黙れ引きこもり。ともあれ海に行こう」


 ギラギラの日光を浴びる砂浜。波揺れる綺麗な海。泳いでビーチバレーをしてバーベキューしたら最高の思い出となろう。まるでリア充大学生だ。ウェーイ!


「えー、暑いし人多そうだし嫌っす」


 俺の熱弁は届かず、五月女はまたテーブルに倒れ込む。くっ、この引きこもり女め。さっきは乗り気だったじゃないかああぁ!

 しかし俺は挫けないぞ。なんとしても海に行かなくちゃいけない。だって必修科目だから。俺の中で。


「海は素晴らしいぞ~。泳いだりビーチバレーしたり焼きそば食べたり! 準備は俺がしてやるから。な、行こうぜ」


「嫌っす」


「じゃあプール。プールでもいいから」


「……もしかして三日尻君は水着が見たいだけじゃないんすか」


 ギクッ。思わず後ろに一歩後退してしまう。

 その動きは図星をつかれたと言っているようなもの。五月女がジト目になる。


「なーにが海は素晴らしいぞ~、っすか。水着が見たいだけじゃないすか」


「くっ……あ、あぁそうですよそれが何か悪いのかあぁん!?」


「逆ギレっす」


 そうだよ俺は水着が見たいんだ。夏だぞ、こんなに暑い夏だぞ? 水着のギャルでも見ないともったいないでしょうがー。


「なぁ頼むよ。行こうぜ」


「……可愛い水着が買えたら考えるっす」


「よっしゃ買おう。今すぐ買いに行こう」


 シャーペンを放り捨てて教科書を薙ぎ払い、即座に立ち上がって五月女の手を掴んで立たせる。財布と鍵を持って準備は万端!


「え、え? い、今からっすか?」


「いいから来いよ」


 五月女の手をグイグイと引っ張って玄関へ向かう。路上でこんなことやっていたら俺は絶対変質者扱いだろう。だがここは俺の家、俺が神だーっ。


「ちょ、やめ……離すっすー!」


「ぐへぇ!」


 五月女は俺の手を弾いてグーパンを放つ。腰の入った鋭い拳に頬をえぐられる。頬が痛いし歯も痛い! な、なかなか良いパンチだな。普通に痛いよ。


「水着は自分で買うっす。三日尻君はついてきちゃ駄目っす」


「なんでだよ。二人でパパッと選んだ方が」


「三日尻君のアホーっす!」


 五月女の叫びに気圧され、俺は五月女が不機嫌そうに帰っていく姿を見送ることしか出来なかった。まだ頬が痛い。

 えー……二人で買いに行けばすぐ終わるのに。なんで一人で買いたいのやら。


「意味が分からん。垂水にでも聞くか」


 と思ったがあいつに乙女心が分かるとは思えないのでやめた。

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