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番外編・金

「それで太郎ったら研究室が忙しいとか言って会ってくれねーんだ!」


 居酒屋の個室。私は日本酒を一気に飲み干してグラスをテーブルにバーン! うへぇ、日本酒美味いな。芳醇な香りがたまらない。


「あ、それ分かりまふ。三日尻君も研究室に配属されてから会う回しゅう減りました。何なんでふか研究室って!」


 そう言って乙葉ちゃんはカクテルを飲む。目はトロンとして呂律が回っていない。


「乙葉ちゃん飲み過ぎじゃね?」


「全然大丈夫れふふぉ~」


 おう駄目だな。前々から分かっていたが乙葉ちゃん酒弱いな。今なんて頭を左右に揺らしている。

 今日はお互いに彼氏の愚痴を言い合う恒例の女子会。私も言いたいことたくさんあったが乙葉ちゃんの勢いと酔いっぷりに押されている現在。うーん、この私が酒の席で圧倒されるとは。乙葉ちゃんやるじゃん。


「でも三日尻とは毎日会っているんだろ?」


「えへへへへぇ」


「何その盛大にだらしなくて嬉しそうな声」


 乙葉ちゃんが幸せに満ちた表情で笑う。頬は緩んで口はニヤニヤ。

 あー、これは嫌な流れ。今までの女子会と同様、今から乙葉ちゃんがノロケ……


「三日尻君はどんなに忙しくても私と会う時間作ってくれるんですっ。それに、夏に旅行行った時に……合鍵もらっちゃいましたー!」


「合鍵って、いやいや今更感すごい」


「これで毎日会いに行けますっ」


「いやいや以前から毎日会ってるでしょ。それこそ付き合う前から」


「私も日本酒飲みます~!」


「あぁ駄目だ三日尻呼ぼう」


 乙葉ちゃんが酔い潰れるのは早い。そして潰れたら三日尻を呼ぶのがいつもの流れ。

 今日も普段通り、三日尻は気怠そうな表情を浮かべて迎えに来てくれた。


「すいません金谷先輩……ほら起きろ五月女」


「えへへぇ、わぁ三日尻君だぁ」


「だから抱きつくな! 俺は研究室終わりで疲れているんだぞ」


「三日尻君おんぶー」


「話ガン無視かい!」


 二人は私をガン無視してイチャイチャしている。

 ……なんだろこの気持ち、この言い表せない気持ちによって酔いが醒めていく。


「三日尻」


「ホントすいません、飲み過ぎるなっていつも言っているんですが」


「こっちこそすまんな。今までノロケ話してきて」


 私が太郎のことについて愚痴やノロケをしていた時、三日尻もこんな気分だったのだろう。そう考えると今更ながら三日尻に謝罪したくなった。


「え、なんで金谷先輩が謝っているんですか」


「いや私のことはいいから、ほら乙葉ちゃん連れて帰ってあげな」


「? はあ、でしたらお言葉に甘えて」


 三日尻は乙葉ちゃんをおんぶすると帰っていった。残された私、酔いは完全に醒めて恐ろしい程に感情は無になっている。

 あー、なんか寂しい。こんな時は……


「もしもし太郎? 今から部屋行くわ。研究室? 今しがたお前と同じ研究室の三日尻に会ったぞお前絶対暇だろ」


 電話の向こうで狼狽している彼氏のところに行って飲み直すとしますか。あいつらに負けてられねーなー。私も今日はイチャイチャしまくって飲みまくろうっと!

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