番外編・木
一年の春休みは自転車の旅をした。ならば二年の夏にはヒッチハイクをする!
そう決めていた僕は現在、どこかも分からないサービスエリアで途方に暮れていた。
「み、ミカジ助けてくれ~」
『何か問題でも発生したん?』
「知らない場所に降ろされて車が全く停まらない……」
『夜の十一時だぞ。終わったな』
ミカジの言う通り現在時刻は十一時過ぎ。サービスエリアに停まる車は一台もなく、フードコートも既に閉まっている。
『粘って車が来るの待てよ』
「四時間は待ってるよぉ」
『予想以上に待ってるな。つーか今どこにいるん?』
「それが漢字が読めなくて……えっと、王の横に久しぶりの久があって王の横に可能性の可がある漢字」
『うわもうアホ全開の説明じゃん。全然分からん』
「だから王の横に久しぶりで王の横に可能性があるの!」
『あー、王が部首ってことか?』
「王がブッシュ? ブッシュは王じゃなくて大統領だよね?」
『あー激しく電話切りたい』
電話の向こうでミカジが特大のため息を吐いている。な、なんだよぉ、高校からの友達が困っているんだから助けてよぉ。
『調べた。玉木、お前本州の端っこにいるんだな』
「お願いだよぉ、助けに来て……」
『遠いから無理。垂水に頼め』
「垂水はミカジに彼女できたことがショックで電話に出てくれない」
『四ヶ月以上も前の話だぞ……あいつキモイな』
僕も思う。それに、ミカジと五月女先輩が付き合うのは分かりきっていたことじゃないか。
だけどミカジに彼女できたという事実が悔しいらしく、垂水は季節が変わってもずっと落ち込んでいる。さすがにキモイよねっ。
『まあヒッチハイクにはハプニングがつきものさ。自力で頑張れ』
「え、ミカジ? 何その通話終わります的な感じ、まだ話終わってないよなんとかしてよ!」
『んなこと言われても困る。一概には言えないが根気良く待つしかないだろ』
「キチガイ?」
『一概な。キチガイはお前と垂水だ』
「お願い助けに来てよ! ミカジは部屋でダラダラしているんでしょ?」
ミカジは三年生になっても相変わらず引きこもってばかりじゃないか。暇ならヘルプミーだよヘルプミー!
『あのな、助けてほしいのはお前だけじゃないから』
ミカジの声のトーンが下がった。え、どうかしたの?
『俺は俺で旅行中……え、いやだから玉木だって。とりあえず飲むペース落とせってホテル連れて帰るの俺なんだからああああ焼酎飲んだら駄目だって!』
電話の向こうではミカジの慌てた声、そしてふにゃふにゃの声でミカジの名前を叫んでいる女性の声と瓶が落ちる音。
え、ミカジ? もしかして今五月女先輩と旅行……
『悪い玉木! 俺は俺でヤバイからじゃあな! 店の中で抱きつくなぁ!』
あ、悲鳴と共に電話切れた。
「……なんか、ミカジも大変だなぁ」
高校からの付き合いの友達が今どこかでヤバイことになっているんだなと思いながら、僕は静かなサービスエリアで夜空を眺めていた。
とりあえず、うん……ミカジ頑張れ。僕もヒッチハイク頑張る。