141 いつもと変わらない中で
いつもと変わらないワンルーム。五月女がベッドに寝転がって俺はテーブルでレポート。いつもと変わらない光景。
「なぁ五月女」
「どうしたんすか三日尻君」
気の抜けた五月女の声。こちらを見てもいない。
「あー、その、なんだ」
「今漫画が良い場面なんで早く言ってっす~」
「お、おう分かった」
俺は深呼吸をして、勇気を振り絞る。
「この漫画面白いっすね~」
「五月女のことが好きだ。俺と付き合ってくれ」
「……」
「あー、恥ずい……」
「………………ふぇ?」
ヤベ、これ思ったより恥ずかしい。告白するの初めてだから緊張したわ……。
「まぁ噛まずに言えて良かった」
「え、え、え? い、いいいい今な、なななななんて!?」
「ちょ、近いなおい」
漫画を放り捨てた五月女はベッドから飛び降りて俺の眼前へと迫っていた。目を大きく見開いて口をパクパクさせて。
「み、三日尻君!? い、い今わ、わわわ、わっ、私のこと、す、す……うぅ!?」
「お、落ち着けよ。どうしたんだ」
「三日尻君が突然言うから! も、もももう一回、言って、もらえます、か」
「……恥ずいからあと一回だけな」
俺と五月女は向き合い、目と目が合う。
「五月女のことが好きだ。俺と付き合ってください」
「……」
「五月女?」
「……う、うぅ」
五月女が泣きだした。え、な、泣いちゃうの!? こんな時どうすればいいか分からないんだけど。笑えばいい? いや絶対違うよね。
「お、おい?」
と、とりあえず五月女を落ち着かせないと、
「好き」
へ?
「好き、大好き。私も三日尻君が好き。ずっとずっと大好きだったんから!」
「な、泣きながらキレて笑っ、うおっ」
至近距離から五月女が抱きつく。二人共々床へと倒れ込み、五月女の髪の毛が俺の顔にかかる。視界いっぱいには五月女の顔があって、
「んんっ、んー、ん!」
「んぐぐ……!?」
何が起きているのか、頭は理解しても体は硬直したまま。五月女の容赦ない求め方に、俺は蹂躙されるばかり。
「……っ」
「んんっ……」
「ぶはっ!? お、お前、何を……!」
「大好き、三日尻君が大好きなの」
「分かったか、っ!? んぐぅ!?」
またしてもぉ!? ぐおぉ、なんだこれ、頭がクラクラするんだけど!
「んんっ……ぷはぁ」
「お、お前すごいな……」
透明な糸で繋がった先にいる五月女の顔は真っ赤だった。乱れた亜麻色の髪の毛先が頬に当たって少しくすぐったい。
「な、なんでサラッと告白しちゃうんす!? 三日尻君は馬鹿なんですか!」
「お前が早く言えって言っただろ。告白するタイミングなんて知らねーし」
「もっとムードを考えてくださいっす! クリスマスとかバレンタインとか夜景見に行った時とか……あぁもうなんで漫画読んでいる時なんすか!」
距離にして数センチ、五月女の激しいダメ出し。涙をポロポロとこぼして、怒った口調で、けれど顔は真っ赤なまま頬が緩んでいる。
「それはまぁ悪かった。で、返事は……?」
「私も三日尻君が好きです。だい、だい、大好きで、ずっとこうしたかったです」
「お、お前もサラッと言ってるじゃん」
「えへへ、三日尻君顔が赤いっすよ」
「お前もな」
いつもと変わらないワンルーム。少しだけ変わった二人の関係。五月女に抱きつかれ、三度目はそっと優しく触れ合った。