140 ホワイトデー3
「過去形ってのは、あの、今は違うってこと?」
「そうですね。今は異性として見てないです」
安土さんはチョコを食べてニッコリと笑う。笑顔が眩しい。
うん、眩しい……そして何この気持ち? この言いようのない微妙な感情は何なんだ!?
「てことは、今のは告白ってことじゃないのね?」
「はい」
「……そですか」
「落ち込まれても困ります。私のアプローチに応えられなかった三日尻君が悪いんだからねっ」
そう言われると返す言葉がございません。確かに改めて振り返ってみるとフラグは結構あった気がする。
「私がキスしてほしいとお願いしたのに、ほっぺにチューで逃げたりとか」
「あれは今でも後悔してます」
未だに夢に出てくるわ。その度に自分自身を罵倒してきた。なぜあの時キスしなかったのか、と。
「チャンスを逃したら女の子は逃げていくんですよ」
「うぐぅ。……いや待てよ。俺、何度か安土さんに聞いたよね?なんで俺の部屋に来るの? とか。あなた無視したけど」
「それに私は身を引くことにしたんです」
また無視かい! こうなってくると安土さんは天然ではなく都合の悪い時だけ聞こえないフリをしているとしか思えないぞ。
恨めしげに見つめるが勿論効いていない。安土さんは俺の目を見て語り始めた。
「最初は本当に好きでした。でも気づいたんです。三日尻君が誰を見ているか」
「え、なんだって?」
「ヒヒーントゥイッターバンチ」
「はいごめんなさい聞こえないフリしました」
「本当は分かっていますよね?」
「……ん、まあ」
目を逸らして頬をかく。ベタな動きだなおい。俺はやれやれ系の主人公か。
……安土さんに告白されたと思った時、確かに嬉しかった。いやもう昇天するぐらい嬉しかったよ。
だけど、その時……俺の心には安土さんじゃない人物が浮かんでいた。
俺はその人のことが、あいつのことが……。
「だから私は諦めたのです。三日尻君とはこれからも仲良くしたいから」
ニッコリ笑う安土さんは指でキツネさんを作ると頭の上に添えてニャーニャーと鳴いている。
すいません、結構大事なシーンだと思うんで奇天烈アクションは控えてください。場の空気が乱れまくりだよ。
「三日尻君、これからも私と仲良くしてくださいねっ」
「……うん、そうだな。これからも遊びに来いよ」
「また一緒に呪文作ってブログに載せましょう」
「それ以外で頼む」
「じゃあ歯磨き粉を貸してください」
「うんそれもやめて!」
「真・キューキューピーチパフューム!」
「その呪文は禁止にしただろ! 悶えるからやめてぇぇ!」