137 飲み帰り
「うぇ~、っす」
「お前飲みすぎな」
「そんなことないれす~」
五月女と店で飲んできた。五月女は酔い潰れて一人では歩けない状態。
「じゃあおんぶするのやめるぞ」
「ご、ごめんっす、おんぶしてくださいっす!」
「耳元で叫ぶな」
現在、俺は五月女をおぶって帰路を歩く。夜道で良かった、昼間だったら周りから見られて恥ずかしい思いを味わっていただろう。
「お前もそろそろ自分の限界を知ろうな。飲むペース考えろ」
「ちゃ、ちゃんと考えてるっす」
「その結果がテーブルに頭叩きつけてダウンか。限界突破してるだろうが」
「七曜の武器っすか? 自分まだ月輪の聖印持ってないっす」
「お前詳しいな」
そんなに酒強くないのだから、せめて飲むペースぐらいは配慮してもらいたいものだ。
今度金谷先輩に預けてみようかな。いや逆効果な気がする。
「はぁ、重たい」
「重たいとか女子に言っちゃ駄目っす」
「駄目なのは酔い潰れたお前の方だと思うんですがそれは」
愚痴をこぼしたが別段それまで重たくない。寧ろ軽いくらいだ。ちゃんと食ってる? 俺が言えたことではないが。
「行け行けゴーゴー三日尻号ゴーゴーっす」
「何それすごく言いにくそう」
「そうれすかぁ?」
「呂律回ってるのかそうでないか分からんなお前」
「気にしなくていいれふよ~っす」
「わざとやってんの?」
「わざとひゃないひぇふっす~」
何言ってるか分からんトロトロな声を出しやがって。他の男だったらホテルに連れ込まれているぞ。
「もっと貞操意識持とうな」
「ふぁーい」
「こいつ……」
あとな、お前くっつきすぎだから。思いきり全身を預けてくるからさ、その、俺の背中に柔らかいげふんげふん。
「さすがでぃーだな。ふにょふにょな感触がここまで伝わるとは……はっ!?」
やべっ、思わず口に出てしまった。五月女はセクハラ発言すると暴れるからな……ど、どうしよ……?
「……さ、五月女?」
あれ、反応がない。返事は返ってこず、次に聞こえてきたのは、
「すー、すー……」
安らかな寝息だった。耳にあたり、絶妙にくすぐったい。ゾワゾワする。
いや寝たのかよ! 呑気だな!
でもおかげで殴られずに済んだ。おんぶしてる状態じゃ攻撃を防げないからな。殴られるのは単純に痛い。単純ペイン。
「すー、うーん……えへへ~」
心地良さそうな寝息をつきやがって、こっちは理性を保つので必死なんだぞ。想像を遥かに上回る柔らかさにビビっているんだからなっ。
「ぐっ、耐えろ俺ぇ」
「三日尻くーんー」
「寝言で名前呼ぶな耳元で囁くなあ……!」
「好きっす」
「……」
「えへへ……すー、すー……」
「……知ってるっつーの」