136 変わらないアホ二人
「もうすぐ四月だ」
勢いよくカレンダーを叩く垂水は眼鏡をかけている。緑色の髪の毛はアイロンをかけたらしく、まっすぐストレートだ。
「つまり俺は何が言いたいと思う? はい玉木答えてごらん!」
「新入生が入ってきますっ」
「正解だ。必修科目の単位を二十あげよう」
「やったああぁぁ!」
垂水、お前にそんな権限はない。玉木、本気で喜ぶな。
「新入生、若々しい十代、大学に思い馳せるピュアな女の子。たまりませんなぁ」
「垂水、ワンチャンあるかもだねっ」
「その通りだ玉木ぃ。ワンチャンあるぞ!」
アホ二人はウキウキで小躍りしている。お前ら二人は一年経ってもブレないね。
浮かれているところ悪いが、俺が現実を教えてやろう。
「サークルにも入っていないお前らが新入生と接点あると思ってんのか?」
ピタッと止まるアホ二人。俺は追撃する。
「それに可愛い子は大型サークルに勧誘されてあっという間に彼氏つくるぞ」
「い、いやでもそこはなんとか話しかけて仲良くなってだな」
「それが出来るならとっくに彼女いるはずだろ。垂水、お前はこの二年間で何を学んだんだ」
「……」
垂水は沈黙。その場にしゃがんで体育座りした。はい次いってみよ。
「玉木、お前にも言えることだぞ」
「ふふ、見くびらないでよミカジ。僕には作戦がある」
「作戦?」
「一年生のフリをしてオリエンテーションや新歓に潜入する。そこで可愛い子をゲットするのさっ」
「玉木。それはウェイウェイな奴らが友達と一緒に行って楽しむやつであって、お前と垂水が行ったところで成功すると思ってんのか?」
「え、で、でも」
「大体それが出来るなら一年前にやれよ。無理だったから今こうなっているんだよ」
「……」
垂水に続いて玉木も黙った。先程の楽しげなムードから一変、暗いどんよりした空気が流れる。あれ、野火先輩がどこかにいるのかな?
「まっ、分かったら身の程を弁えて大人しく非ウェイウェイしようぜ。俺らに彼女は無理だよ無理無理まぢ無理」
それより桃鉄やろうぜ。どうせお前ら暇だろ? 99年設定で明日の昼までぶっ通しでやろう…………殺気を感じる。
振り返ると、布団たたきを持つ垂水とまな板を構える芋助が俺を睨んでいた。
「万物をはたき堕とす、閻魔の釈(ヘル・スティック)」
「主人公補正で強くなる、成り上がりの盾(ラノベチート)」
「お前ら本当何も変わってないわ……」
「「死ねぇリア充が!」」
「いや俺リア充じゃないから!」
迫ってくるアホ二人に俺は素手で立ち向かう。もうすぐ春休みが終わる、三月の中旬のこと。