135 テレビゲーム3
幾度と挑んできた。その度に、五月女に負けてきた。凄惨たる敗北を受けて俺のプライドはズタズタ、負け続けて枕を濡らした日々も続いた。
だから特訓してきた。暇さえあれば、まぁいつも暇だったんだが。余りうる膨大な時間を使ってゲームをしてきた今の俺は強い。今度こそ五月女に勝ってみせる!
「てことで勝負だオラァ!」
「桃鉄っすか? いいっすよ~」
てことで五月女とゲームをする。二十年プレイでゲーム開始。
マップを把握した俺に隙はない。……そう思っていたのに、
「ゴールっす~。ボンビーはまた三日尻君っす~」
五年目の決算後、トップは五月女で俺は最下位。ボンビーにつきまとわれて借金は一億を超えた。
こ、こいつ強い。五月女はほぼ全ての目的地にゴールして総資産を増やしていく。
「ほらほら三日尻君早くしないとキングボンビーになっちゃうっすよぉ?」
五月女が横で煽ってくる。ニヤニヤと笑う顔は勝ち誇ってボンビーもニヤニヤ笑っている。
む、ムカつく。今すぐにでも電源をオフにしたいが五月女怒るし……まだ我慢しよう。チャンスを伺え……!
「俺はぱろぷんてカードを使う!」
「遊戯君みたいな言い方っすね。自暴自棄になっちゃ終わりっすよぉ?」
「出た! 30マス進む……ゴールだ!」
「え?」
一気に目的地へと到着。しかもハワイだ。金が入って……借金が消えた! キタキタキタ、キタキツネ~!
そしてボンビーがつくのは、さおとめ社長!
「い、一回ぐらいで調子乗らないでくださいっす。まだ自分が一位……って、ボンビーが……え?」
暗雲立ち込めてボンビーがキングボンビーへと変わった。恐ろしいBGMの中、五月女の頬を汗が流れ落ちる。
そこから、俺は着々と目的地へゴールしていく。さらにはゴールドカードで十億の物件を買う。一気にトップへ躍り出た!
一方、五月女は、
「うぅ、カードもお金も物件もないっす」
キングボンビーの凶悪な攻撃を食らって最下位へと転落していた。独占していた都市を失い、それでも借金は返せないでいる。
「ほらほら五月女さ~ん? ボンビラス星に連れて行かれましたよ~?」
「う、うぅ」
八年目の決算が終わる頃には五月女の借金は十億に達していた。俺は総資産が五十億を超えた!
「あ、またキングボンビーになりましたなぁ。これで三回目だったかなぁ?」
「……」
「ほらほら早くサイコロ振れよ~」
あぁ気持ち良い。ついに五月女へ復讐できた。このままボコボコにして圧倒的差で負かしてやるぜ。ぎゃはは!
ん? おいおいどうしたよ黙っちゃって。
コントローラーを握りしめて俯く五月女の肩をバシバシ叩いてやる。さっさとしろや、俺はネズミーランドも買い占めたいんだよ、ハハッ!
「オラ早くしろや」
「……っく」
「あ?」
「ひっく、うえぇ……もう嫌だよぉ……っ」
「五月女?」
五月女はコントローラーを落とし、目から大量の涙を流す。号泣だ。
「え、ちょ、な、泣いてんの?」
「もう辛いっす……ぐすっ、虐めないでよぉ……えぇん、うぅ」
「あわわわわ!?」
五月女が泣いてしまった! や、やり過ぎたか。慌ててゲームの電源を落とす。ほら、ゲーム消したから、なっ?
だが五月女は泣き止まない。涙もしゃっくりも止まらず、迷子の子供みたいに泣く姿は見ていられなかった。
「わ、悪かったって。俺も大人気なかった」
「うえぇぇん、ひっく、べ、別に、気にしてない、っ、もん……」
「うあぁ泣かないで! 俺が辛い!」
泣き続ける五月女を抱きしめて頭をナデナデする。ほら、お前こうしたら喜ぶだろ、な? おまけにもっともっと強く抱きしめてやるからっ。
それでも五月女は泣き止まない。俺の胸元に抱きついて小さな嗚咽を漏らす。
「キングボンビーは凶悪だよぉ……っ」
「落ち着けって、ほら、ずっとこうしていてあげるから!」
五月女の涙で服が濡れていくのを感じながら、俺は五月女を抱きしめ続けた。
あれだね、これからは運要素の強いゲームで勝負するのは控えよう。