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133 実はこの二人

「三日尻、起きろ」


「んー……う、うっぷ……!」


 顔を上げれば吐き気もこみ上げてきた。


「これしきの酒で酔って寝るとは弱いなぁ」


「俺は普通です。あなたが異常なんです」


 そうか?と言ってゲラゲラ笑う金谷先輩の姿をよそに俺は内側から痛む頭を抱えて起き上がる。

 思い出した、金谷先輩と飲んでいたんだった。飲んで、そんでつぶれた。この人の飲むペースに合わせたらそうなるわな。


「あー、痛い……ん?」


 痛む頭を抱える、その手に違和感がある。ねっとりつく感触、髪の毛が濡れている。

 これは……この感触は、シャンプー?


「……何しました?」


「三日尻起きないからシャンプーした」


「寝てる時にシャンプー!? なぜ!?」


「なんとなく」


「そりゃそうだよな! なんとなく以外に理由ないよな!」


 何このいかにも大学生らしい悪戯! 確かに俺ら大学生だけども! あぁもう最悪だよめちゃくちゃ泡立ってるし……。


「ちゃんと痒いところはありませんかー?って聞いたぞ」


「シャンプーはすること前提で尋ねないでくださいよ」


「三日尻は細かいなぁ。きめ細かいのはシャンプーの泡だけで十分だぞ?」


「何ちょっと上手いこと言いましたみたいな顔してんすか。結構無理矢理でしたよ!?」


 あぁ最悪だ。頭痛いし頭泡立っているし。

 床に落ちた缶を足でどけながら浴室へと向かう。シャワー浴びてこよ。


「シャワー浴びてきます」


「覗かないから安心したまえ」


「今ピロンて音聞こえましたよ。盗撮する気満々じゃねぇか」


「乙葉ちゃんが高値で買ってくれそうだからな」


「なんてことするつもりだ! いいからもう帰ってください」


 あなたがいたらシャワー浴びることも出来ないわ。宅飲みはお開きにするんで帰ってください、というか帰れ。

 だが金谷先輩は動かない。それどころか新たに缶ビールを開けた。


「もう少し待ってくれよ。彼氏が迎えに来てくれるんだ」


「うわもうダメージえぐい。独り身には辛いんですが」


「卒論が終わって少し暇になったらしいんだ。今日からイチャイチャしまくる」


 うわもう本当ダメージえぐい。なんで先輩の惚気話を聞かないといけないの?

 この人は帰ったら彼氏とイチャイチャして俺は部屋の後片付け。考えただけで惨めになってきた。リア充羨ましいチクショー。


「ぶはははっ、三日尻はセクキャバにでも行って寂しさ紛らわせてこい」


「セクキャバすか。それもアリですね」


「安心しろ、乙葉ちゃんに言っといてやるよ」


「やめてくれません!?」


 あいつ怒るから。なぜあいつが怒るのかは意味不明だが確実に怒るから告げ口しないでください!


 と、インターホンが鳴る。誰か来たらしい。

 ……五月女じゃないだろうな。だったらヤバイ。だって金谷先輩が告げ口しそうだから。


「お客さんだぞ。乙葉ちゃんだったらいいな」


「そうでないことを全力で祈りつつドアオープンですわ」


 念じつつ扉を開く。そこに立っていたのは五月女ではなかった。一安心。


 ……そこにいたのは暗いオーラを放ちまくる野火先輩だった。眼鏡が落ちかけて唇が青い。相変わらず根暗なお姿ですね。


「こんにちは先輩。何か用で?」


「すまないけどしばらく部屋で休ませてくれるかな?」


「えぇ、それは構いませんが」


 ありがとう、と一礼して野火先輩はのそのそと靴を脱ぐ。

 そういや最近会ってなかったですね。卒論発表会で野火先輩が発表する姿は見ましたが話すのは久しぶりだ。


「休むって何かあったんですか?」


「これからあるんだ。実はこの後、彼女を迎えに行くんだが、その前に気持ちを落ち着かせようと思ってね」


「あぁ例の凶暴な彼女さんですか。卒論終わったのに大変ですね」


「本当だよ。チャンスとばかりに僕を拘束して……って、えぇ!?」


 ビックリした。野火先輩が大声を上げたのだ。根暗なこの人らしくない絶叫が響き渡る。え、うるさ、なんですか。


 野火先輩は口をパクパクさせて目を見開いていた。その視線の先、そこにいるのは金谷先輩。


「あ、すいません。俺の知り合いの先輩いましたわ。こちらは金谷先ぱ」


「な、なぜ……なぜ由衣さんがここにいるんだ!?」


 ……え、由衣さん? え……?


「あ、太郎じゃん。迎えに来たの?」


 え、太郎? え……ちょっと待って。太郎、由衣さん……親しげに呼び合う野火先輩と金谷先輩……


 え……え……ま、まままままま、まさか!?


「紹介するわ三日尻。こいつ私の彼氏」


「こ、光一君……由衣さんは僕の彼女だよ……」



 ………………ええええええぇぇえぇぇ!?

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