131 お泊まり
時刻は夜の十一時。俺は本に栞を挟んで立ち上がる。
「そろそろ帰れよ、五月女」
「んー」
ベッドで漫画を読んでいる五月女は気の抜けた声で返事した。
「いや起きろよ。送ってやるから早く支度しろ」
「今日は泊まるっす」
「またかよ……」
以前から五月女は俺の部屋に泊まることがある。こいつはマジで俺の部屋をネカフェと勘違いしているのでは?
「あのなー、年頃の女の子が男の部屋に泊まるとかやめた方がいいぞ」
「いいじゃないすか」
「良くねぇよ。俺じゃなかったらお前襲われているからね」
俺は紳士だから襲ったりしない。本当だよ、決してヘタレなわけじゃないよ!
「……三日尻君は襲わないんす?」
何その期待したような眼差し。誘ってんのか? お? お? おちょくりやがって。俺はそこらのリア充大学生と違って超草食系男子なの。リスクリターンの計算と自己保身が得意な昨今のやれやれ系男子なの。
「つーか泊まるつっても着替えとかないだろ」
「持っているっす」
「最初から泊まる気満々じゃねーか」
「駄目っすか……?」
「……はぁ、勝手にしろ」
俺がそう言うと五月女はニコニコと笑って手を叩く。クソ……上目遣いセコイわぁ。わざとやっていると分かっていてもドキッとしてしまう。いや俺がちょろいだけか?
「シャワー借りるっす」
「借りたら返せよ」
「ぶー、三日尻君のイジワルっす!」
舌をべーっと出して五月女は浴室の方へと向かおうとする。俺は黙って五月女の横を通過して部屋から出ていき、鍵をかけてポストへ入れる。
まぁこうしないと精神衛生上よろしくないんでね。目をつぶってくれたら自分は平気っすと五月女は言うが俺は無理なんだよ。
「目つぶってもぜってぇシャワーの音聞こえるやん。そんな生殺し耐えられるかよ……」
なので五月女がシャワーを浴びている間はコンビニで過ごす。立ち読みすると雑誌がよれよれになって次買う人が可哀想なので極力立ち読みはしない。ではどうやって時間をつぶすか。
それはひたすら商品を見続ける。あらゆる品を鑑賞し、意味もなくバーコードを読み込んだりして三十分経ったらレジへと向かう。恐らくここの店員から俺は『いつも悩んでるくせに結局Lチキ男』と呼ばれていることだろう。
「五月女、開けてくれるかー?」
コンビニから家へと戻ってきた。ドアを開けてくれた五月女へアイスを渡して俺もシャワー浴びる準備をする。
「言っとくけど自分は部屋から出ていかないっすからね」
アイスを食べながら五月女はそう言う。分かってるよ別に俺は見られるのは平気だから。俺は変態かっ。
あと、お前着替えあるって言ったよな。なんで俺のジャージ着てるの? そんな思いで五月女を見つめると、
「な、なんすかそのいやらしい目は。自分、身の危険を感じるっす」
「人の家でシャワー浴びといて何言ってやがる」
何度か泊めたことあるが五月女はいつも俺のジャージを着る。でも下着は持ってきているらしい。なんで下着は持ってきて寝巻きは持ってこないの? 馬鹿なの?
「三日尻君のジャージなんか匂うっす」
「おいテメェ今すぐ脱げや」
「み、身の危険を感じるっすー!」
「だったら今すぐ帰れよ!」