129 帰還
玄関が開く。そこに立っていたのは謎の男だった。
「どなたですか?」
ボサボサに伸びた不衛生な髪の毛、口元にたっぷりと生えた髭、身につけた衣服はボロボロで汚れて、巨大なリュックを背負う姿はどこをどう見ても浮浪者にしか見えない。
俺ん家、色んな奴を招き入れてきたけどさすがにホームレスの炊き出しまでした覚えはないですよ?
と、謎の男が口を開く。その声を聞き、記憶が蘇る。
「ミカジ久しぶり~」
「お前、玉木か」
謎の男は玉木麦平だった。春休みを利用して自転車で旅していた玉木が帰ってきたらしい。久しぶり、連絡なかったから息絶えたと思ってた。
にしても随分と無残な格好になったね。
「今帰ってきたんだ!」
「おぉ、お疲れさん。わざわざ寄ってくれたのか」
「いや、ここがゴールだからだよ」
「ゴール?」
すると玉木はリュックの中からよれよれのスケッチブックを取り出した。
「行った場所の地名を書いて写真を撮ってきたんだ」
玉木はそう言いながらスケッチブックをめくり、最後のページを見せてくれる。最後のページには……大きな文字で『GOURU! ミカジの家!』と書かれていた。ゴールの綴り違うぞ。
「お前の旅の終点ここでいいのかよ」
「そうだよ!」
「普通は自分の家じゃないか?」
「家の鍵は失くした!」
清々しい程の元気な返事ありがとう。あぁ、この感じ懐かしい。馬鹿と会話しているなぁってなる。
「ミカジ写真撮ろうよ!」
「とりあえずシャワー浴びてこい」
「わーい四日ぶりのお風呂だ!」
「通りで悪臭すると思ったわ」
全裸になる浮浪者を浴室に押しこみながら酒でも買ってこようかなと思う俺であった。