127 貧困3
「もうすぐ完成っすよー」
ベッドでガタガタ震える俺の耳に届く五月女の声。震えているのは寒さのせいだけではない。今から五月女の手料理を食べなくてはならないからだ。
五月女の料理スキルのなさはバレンタインの時に身をもって知った。チョコ食べたら意識が途絶えて目が覚めた時には翌日の夕方だったんだぞ。めのまえがまっくらになったのレベルを遥かに超えていたわ。
だから五月女がキッチンに立っているのがとてつもなく怖い。ダークマターはもう食べたくない……!
「はい、どうぞっすー」
五月女が持ってきたお皿に乗っていたのは……なんと…………チャーハンだった。普通の、美味しそうな、チャーハン。
「え、普通に美味しそう!?」
まさか、五月女は努力して料理のスキルを上げた……!?
「ふふんっ、レンチンこそ究極の調理法っす~」
「あぁ、冷凍食品か」
そういやそうだった。五月女は電子レンジで解凍することが料理だと思っているんだったな。このチャーハンもレンチンで温めただけ。
「いただきます!」
だが今の俺にはこれでいい。寧ろ良い!
久しぶりの食事、俺は無我夢中でチャーハンにがっつく。気分はギンだ。
「うめぇ、うめぇよ……!」
「ふふっ、良かったっす」
一昨日ぶり、時間にして約四十二時間ぶりの食事に腹どころか全身が歓喜している。チャーハンがエネルギーとなって全身に広がっていく感覚が手に取るように分かる。
美味い、美味すぎる……!
「ごちそーさん!」
「えへへ、手作りした甲斐があったっす」
冷凍食品のどこに手作り要素ある?とかは言わない。今は食えたことだけに感謝しよう。
「で、これからはどうするんすか?」
五月女の言う通り、今日は恵んでもらえたがまだ不安は残る。たかが二日で限界を迎えているようじゃ俺もまだまだ甘いな。
「まぁなんとかなるだろ」
「……自分また作りに来るっすよ?」
「いやこれ以上恵んでもらうわけにはいかない」
救援物資が届くまで五月女から冷凍食品をもらい続けるのはさすがに申し訳ない。ホームレスへの炊き出しじゃあるまいし。
「駄目っす。このままじゃ三日尻君が死んじゃうっす」
五月女はズイッと詰め寄ると俺の肩を掴んで揺らしてきた。その目は真剣そのもの。
「三日尻君が死んじゃったら自分悲しいっす。なので三日尻君は死なせないっす」
「いやでも毎日奢ってもらうのは」
「じゃあ三日尻君には食事の度に一つお願いを聞いてもらうっす」
それでいいでしょっす?と五月女は付け加える。んー、それなら等価交換になっている、のかな? 五月女は折れそうにないし大人しく申し出を受け入れておこう。
「んじゃ、その、よろしく頼むわ」
「ふふん、任せろっす~」
五月女は胸を張って自慢げに笑う。レンチンしてるだけの奴が何を偉そうに、と思わず心の中で苦笑。
でも、ありがとうな。そう思う俺であった。
……それから毎日、頭を撫でろとか頬を触らせろと命令される俺であった。