126 貧困2
日曜の昼下がり。俺はベッドの中で毛布にくるまっていた。
「こんにちは~、って暖かくないっす。なんすかこの部屋!」
「……五月女か」
「この部屋外と変わらないくらい寒いっすよ。暖房つけるっす」
「駄目だ絶対つけるな」
「な、なんでなんすか」
「金がかかる」
現在、俺は危機に直面している。歯はガタガタ、腹はグーグー、肉体的に限界を迎えているのだ。
「そんなにお金ないんす?」
「ない。金も食料もない」
「……最後に食べたのはいつっす?」
「金曜の夜」
「二日前っす!?」
「そうだ。何も買えないから寝て空腹を紛らわせている」
「冬眠じゃないすか……。誰かにお金に借りたらどうすか」
「金の貸し借りだけは絶対にするなと母親からキツく言われているんでな。そのくせして俺がヘルプしても返事は返ってこない」
どうせウチの両親のことだ。月曜くらいにダラダラと用意するから救援物資が届くのは木曜か金曜あたり。それまでは何も買えず耐えなければならない。
その旨を伝えると、五月女はドン引いていた。
「三日尻君死んじゃうっすよ?」
「本当にヤバかったら野草を採ったり魚を釣る」
「二日食べてない現時点はヤバくないんす!?」
それもそうだな。
「三日尻君はもっとお金を計画的に使うべきっす」
説教垂れているところ悪いが、お前が飯食いに来たり勝手にクーラー使ったりしたのも一つの原因だからね。クリスマスに俺がツリーやシャンパン買ったの忘れたか。
「せめて暖かくして寝ないとっす。体調崩すっすよ」
「電気代が払えないといよいよ終わりだろうが」
ガスや水道代などの支払いはちゃんとしている。これらが止まると部屋ひきこもり系の俺にとっては死活問題になるからだ。滞納して一年生の冬に死ぬ思いをした。
「俺のことはいいから帰ってくれ」
「でも三日尻君が……」
五月女は哀れんだ瞳で俺を見つめる。同情するなら金をくれ、と言うが人様から金をもらうなと父親から言われてるんで。ウチの両親、他人と金銭トラブルあったのかな。
「……仕方ないっす。自分が三日尻君を助けるっす!」
「金の施しは受けんぞ」
「違うっす、ご飯作ってあげるっす」
ご飯……五月女が、ご飯を、作るだと……!?
嫌な予感がする。嫌な予感しかしない。寒かったはずなのに全身から汗が噴き出してきた。
「じゃあ今から食材を買ってくるっす。待っててっすー」
「待て、待って、待ってください五月女さん。それだけは勘弁してもら」
「行ってくるっす」
「五月女さぁん!?」
五月女がいなくなった部屋。俺の絶叫は誰にも届くことはなく、次に待っているのは五月女の帰還と、そして死であった……。