124 ガールズトーク
コタツの上には酎ハイやビールの缶、ピザポテや生ハムが置かれてある。いかにも宅飲みって感じの部屋で、俺は端っこでチビチビとビールを啜っている。
なぜかって? コタツでは女子二人がゲラゲラと笑っているからだ。
「あっはっは、乙葉ちゃん飲めるクチだな」
「そういう由衣先輩こそ~!」
居酒屋の個室にいるかのようなテンションで飲んで食って騒ぐのは金谷先輩と五月女。あのですね、ここ俺の部屋です。家主放置で盛り上がりすぎでは?
だがそんなこと言える空気ではないし仮に抗議しても無視されるだけ。
クリスマス以来に再会した二人だったが意気投合するのに時間はかからなかった。話が弾み、宅飲みするから三日尻買い出し行ってこーい!とパシられて今に至る。
「にしても乙葉ちゃん可愛すぎるわ。モテるだろ~?」
「私なんかより由衣先輩の方がモテそうですよ」
「まぁそこそこだな! ぶわっははは!」
こいつら楽しそう。二人で盛り上がっているなら俺は気にせず暖かいコタツで一人飲めばいい、とはならない。だって俺が近くにいると五月女が「ガールズトークの邪魔っす!」と言われ、金谷先輩から「おう暇なら酒持ってこい」と命令されるから。
部屋の端っこでなるべく息を殺して存在消すのがベターな選択肢と言えるだろう。このまま何事もなく宅飲みをやり過ごしたい。
「彼氏もいるんですよね? いいなぁ」
「乙葉ちゃんならすぐに彼氏でき……あー、そっか。あいつか」
「わ、分かります?」
「苦労してるだろ?」
「そうなんですよっ。スケベでデリカシーがなくてだらしない人なんです!」
「クソ野郎だな。死ねよ三日尻」
なんで急に俺を罵倒するん? 突然すぎて声裏返るわ。あ、今の例えツッコミね。授業中ぼーっとしていたら急に先生に当てられて声が裏返るってやつ。
怖気づく俺を睨む金谷先輩と、それを必死に止めている五月女。なぜか五月女が顔を赤くして焦っている。
「ちょ、ちょっと由衣先輩、気づかれちゃう……っ」
「あ、そっか。ごめんごめん。乙葉ちゃん乙女だなぁ」
「え、何を話してるの? 俺関係ある?」
「三日尻君は黙ってっす!」
「そうだ黙れ小僧!」
えー……だからここ俺の部屋なんですが。家主が黙れっておかしいよね、絶対おかしいよね。でも刃向えません。金谷先輩と五月女、このコンビに勝てる気がしない。
「あれだな、三日尻邪魔だな」
「そうですね。三日尻君、出てくださいっす」
「は? なんで俺が」
「三日尻帰れや」
「仰せのままに」
なんで俺が邪魔者扱いなんだ。帰れってここが俺の帰る場所だ。と、言いたくなるのを抑えこんで大人しく首を縦に振って部屋から退室する。俺弱すぎ……。
アパートの階段を下りて上を見上げる。今頃女子二人はキャピキャピとガールズトークしているんだろうな。そう、俺に居場所はない。
「あ、もしもし垂水? 今からそっち行くわ」
女子二人から許しを得るまで垂水の部屋に避難するしかない俺であった。