12 風邪
明日提出の課題を終えてミルクコーヒーを飲む。
美味いよなぁミルクコーヒー。この程良い甘さがたまらない。無人島に持っていくとしたら、携帯電話かな。ミルクコーヒーじゃないんかーい。なんてね。
「五月女も飲むか?」
「……ん、飲む、っす……っ」
テーブルにもたれかかる五月女の顔は……おい、どうした。
「顔赤いぞ。まさかお前」
「か、風邪じゃないっすよ。さ、36度7分っす」
五月女は弱々しく声を絞り出している。いや絶対嘘だろ。俺が聞く前に風邪じゃないと否定した時点でお察しだよ。
「お前なぁ、風邪引いた時は来るなよ」
「か、風邪じゃないっす~」
けほっ、と咳き込んで何言ってやがる。五月女の顔は赤く、やけに汗をかいている。髪が乱れていつもの快活な姿はどこにもない。
どう見ても辛そうじゃん。……はぁ、仕方ねーな。
「ベッドで寝てろ。動けるか?」
「む、無理っす……」
「はいはい」
弱りきった五月女を抱きかかえてベッドに寝かせる。こいつ軽いんだな。
「あ、ありがと、っす」
「本当は何度だったんだ?」
「……38度7分っす」
割と高熱じゃないか。中学生なら喜んで親に見せるレベル。マジでなぜ来たんだよ。自分の家で大人しく寝てろや……。
「このアホが」
「う、うぅ」
「……熱さまシート貼るぞ。デコ出せ」
タンスから風邪薬と熱さまシートを取り出す。亜麻色の綺麗な髪をそっとかき上げて冷えピタさんをピタっと貼る。
「えーと、ポカリがあったはず。あとはお粥作るか」
「食欲ないっす……」
「喋んなアホ」
冷蔵庫の中は一応食材がある。あぁでも足りないやつあるしポカリも補充しておきたい。
「買い出しに行ってくる。いいか、絶対に安静にしていろよ」
「ここにいないんすか……?」
ベッドに視線を落とす。五月女が口まで毛布をかぶって、弱々しい目で必死にこっちを見つめていた。
目に映る五月女の弱っている姿。こいつの辛そうな顔……っ。たまらず俺はベッドの傍にしゃがむと、亜麻色の髪の上からそっと頭を撫でる。
「すぐに戻る。大人しく寝ていろ」
五月女に別れを告げて部屋を出る。アパートの階段を下り、後ろを振り返って自分の部屋を見て、思い返すあいつの顔。
「……急ぐか」