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110 餅

「餅はうめーなー」


「そうですね」


 金谷先輩は幸せそうに餅を食べている。むにょーん、と餅が伸びて漫画みたい。俺も甘醤油をつけて食べる。美味い。やっぱ正月は餅だよね。


「うめー」


「一気に食べると喉に詰まりますよ」


「見くびるなよ三日尻。私がそんなヘマを……っ、うぐっ」


 金谷先輩の顔が歪んだ。喉を押さえて苦しげな悲鳴を上げる。え!?


「ち、ちょ、先輩?」


「ぐっ、苦しい……」


 なんてことだ金谷先輩が餅を喉に詰まらせた! あ、あわわ、どうしたらいいんだ?

 混乱と焦りが一気に押し寄せ、俺まで息が苦しくなってきた。せ、先輩が……!?


「なーんてね」


「……え?」


「冗談だよ。ははっ、三日尻焦りすぎだ」


 苦しげな表情はケロッと変わっていつものヘラヘラした調子に戻る金谷先輩。そして俺の顔を見て愉快げに手を叩いて笑っているではないか。

 ……騙された! 今の演技かよっ。


「心臓に悪い冗談はやめてください……」


 こっちは本気で心配したんですからね。つーか少し涙出てきたし。そんな俺の姿が面白いらしく、金谷先輩はケラケラ笑って餅を頬張る。


「そう簡単に詰まりはしないさ。私はまだピチピチの二十代っ、餅を食べて詰まるわけが……」


「金谷先輩?」


「う、ぐぅ……っ!?」


 金谷先輩が苦しみだした。また喉に手を添えて暴れているが……もう騙されんぞ。


「二回連続はタチ悪いっすよ。さっさと起きてください」


「がっ、ぁ、三日じ、助け……!」


「はいはい」


「ぃや、マジでこれは……っ!?」


 ジタバタ暴れる金谷先輩。いつまでやっているんですか、もう通じませんよ。俺はそっぽ向いてきな粉餅に手をつける。


「っ……がっ、あ」


 ……やけに長いな。嘘だってバレたのにまだ暴れている。

 チラッと見れば金谷先輩は床にうずくまっていた。先程までは激しくのたうちまわっていたのに、今は痙攣みたいにピクピクと微かに蠢いているだけ。

 え、これ、え……?


「せ、先輩。冗談ですよね?」


「……」


「金谷先輩!?」


 もしかして本当に餅が詰まったの!? え、え、嘘っ、えぇ!? な、なんてことだ、俺が無視したせいで……俺のせいだ……っ!


「大丈夫ですか!? あ、あ、どうすれば……」


 落ち着け俺。まずは救急車を呼んで、いやその前に気道を確保? どうやって餅を取り除けば……あ、頭が混乱してまた涙が……


「う、うぅ、先輩死なないで……っ」


「なーんてな」


「……」


「ぎゃはは、三日尻マジ泣きじゃーん」


「……あ?」


 再び起き上がってゲラゲラと笑う。俺を見て笑っていやがる。こ、の、クソ先輩が……!


「いやー、悪かった悪かった。でも三日尻がそんなに慌てるとは思わなかったよ」


 あぁん? こっちは本気で心配してたんだよ……それを、二回もだとぉ? キレた、俺キレた。ぷっちんだ、ぷっちんプリンだ!


「笑えない冗談はやめてください! 本当に喉詰まった時どうするんですか!」


「そ、そんなに怒るなよ。悪かったよ」


「俺は本気で心配したんですからね! いい加減にしてください!」


「あー、いや、マジですまん。お詫びに私の餅を揉ませてあげるから」


「揉まんわ!」


「あ、しゃぶってみる?」


「それこそ喉に詰まるわ! 俺が死にかけるわ!」


 三日尻は元気だなーと言いつつ金谷先輩はまた餅を食べる。つーか女子が簡単に胸を提供するなよ!

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