105 大晦日
「あと一時間で年明けっす」
「そうだな」
「三日尻君寝ちゃ駄目っすー!」
鍋とコタツで体はポカポカ、目を閉じれば今すぐにでも眠れそうだ。
だが五月女は寝ることを許さない。カウントダウンするまでは起きてないといけないらしいよ。鬼畜の極み五月女だ。
「年末年始は忙しくてバイト休めないって友達多いっす。でも自分はバイトしてないので関係ないっす~」
「俺もだ。だったら実家に帰れよって話だよな」
「いいじゃないすか~、自分と二人で年越しでも」
どうせ実家に帰ってもやることない、てことで五月女と大晦日を過ごすことになりました。学生街で働く同級生を尻目に部屋でまったり日本酒飲んでます。
「そろそろ年越しそば食べるか」
「あ、お湯いれる作業したいっす」
「もこみちみたいに高い打点から注ぐつもりだろ。危ないからやめろ」
「自分はオリーブオイルっす」
「そばにオリーブオイル入れてどうする。パスタに混ぜろパスタに」
「それじゃあ年越しパスタになるっす。年越しはそばっすー!」
「なんでキレてんの? お前が話めちゃくちゃにしたんだぞ!?」
ネギと卵を入れただけの市販のそばに五月女が高い打点から七味をかけてきた、俺の分だけ。お前辛いの苦手だもんな。でも七味はかけたかったんだね。
五月女と並んで二人、ズルズルとそばをすすりながらテレビを観る。
「ガキ使面白いっすね」
「そうだな。個人的には高校のスーパーボールのやつが一番好きだ」
「高校? スーパーボール? 何言ってるんすか」
え、分からないの? 俺ちょっと悲しいよ。今度一緒にDVD借りて観ようか。
「CMの時は紅白にしてな」
「いいっすけどそんなに観たいんす?」
「可愛い女の子いるから。うわーめっちゃ可愛い!」
「……」
「五月女、なんで俺の腕をつねる」
五月女が無言でつねってきた。あなたは無口なお嬢様系ヒロインですか?
「三日尻君デレデレしすぎっす」
「はいはいごめんなさい」
「はいは一回っす!」
「はいっす」
「っすはいらないっす!」
「お前が言う!?」
とかいつもみたいにダラダラ過ごしているうちに年明けまで残り二十秒となった。俺は慌てて立ち上がって屈伸して準備を始める。
「何してるんす?」
「ふふ、知りたいか? 実はな、年明けの瞬間にジャンプして」
「地上にいなかったとかやりたいんすか? 子供じゃないんだからやめてくださいっす」
「え、めっちゃ冷めてる!?」
「そんなことよりあと十秒っすよ!」
「マジか! え、ヤバどうしよ、何かしないと……」
「……」
「うおぉお三、二、一……」
「……えいっ!」
「ぬあっ!?」
テレビから流れるハッピーニューイヤーを告げる音、外からは盛大な花火の爆音が聞こえる。
新年になる直前、俺の体は横へと傾いて今は床に倒れこんでいる。いや正確には倒された。
五月女が抱きついてきたのだ。
「な、何してんのお前」
「え、あ……い、いいじゃないすか~、新年早々自分みたいな可愛い女子大生に抱きついてもらえたんすよ。三日尻君は幸せ者っすぅ」
「いや唐突すぎて何も分からなかったから」
新年になって最初にやったことが五月女と抱き合ったことなんですが? それでいいのか今年? なぁ誰か教えて。ベストアンサー求む。
あとちなみにテレビでは光一君の誕生日を祝っていた。同じ光一でもあっちはスーパースターの光一君だからね。
「で、いつまで抱きついてるん?」
「っ……も、もうちょいっす」
「なんでだよ今すぐどけよ」
「う、うるさいっす。可愛い女子大生に抱きつかれているんだからもっと喜ぶべきっす」
「はいは……はいっす」
「だから、っすはいらないっす~」
あ、そうだ。まだ言ってないことがあった。
年が明けて一月一日。新しい年となったこの日に、一緒にいてくれたこいつに言わなくちゃいけない言葉がある。俺は倒れたまま五月女の髪を撫でて思いきりニコッと笑いかけた。
「あけましておめでとう五月女。今年もよろしくな」
「こちらこそよろしくお願いします三日尻君っ。えへへ~」
俺は五月女の髪を撫でて五月女は俺の頬をつつく。なんとまぁ不思議でシュールな今年の始まりだろうか。
まっ、楽しいからいいか。




