100 外出編・クリスマス3
「雪降ってるな」
「そうっすね……」
「クリスマスに雪とかリア充が調子乗るんだろうが。許せぬ」
「そうっすね……」
五月女と二人夜道を歩く。俺が散歩しようと提案したからだ。こんな寒い日に、しかも夜に散歩とか頭おかしいんじゃね? 提案した俺自身も今になって後悔してる。
でもテンション上がったから仕方ないでしょ。部屋でシャンパン飲んでチキン食べてクリスマスソング聴きながらプレゼント交換して大きなケーキを食べる。
そんな状況で雪が降りだしたら「散歩行こうぜおい! ふぉう!」となるのは仕方ない、うん仕方ないんだ。
……寒いなチクショー。手袋忘れたし。手が冷てえ。
「やっぱ夜は冷え込むわぁ」
「そうっすね……」
「五月女?」
先程から五月女の様子がおかしい。いやまぁ朝からテンションおかしかったけどさ、今は真逆でおとなしいのだ。口数が減って俺の方をチラチラ見て、目が合うと即座に俯く。そんでしばらくしたらまたチラチラ見てくる。何か言いたいことでもあるん?
「嫌なら戻るか」
「嫌じゃないっす!」
「そ、そうか」
予想外に大きな声で返事がきた。あ、あのー、嫌でないならどうして静かなの? 今日ずっと邦正並みにハイテンションだったお前が俯いているとすごく気になるんだが。
……それにしてもロマンチックだ。今頃リア充グループはウェイウェイ言って騒いで、リア充カップルは雪を溶かす勢いでラブラブやってることだろう。けっ、羨ましいですな。ちゃんとゴム装備しとけよ。
「み、三日尻君」
「あ、どこかのアパートからエルレ聴こえる。定番のクリスマスソングも良いけどやっぱエルレだよな」
「三日尻君……」
「え、女二人の罵倒が聞こえる。こんな日に修羅場とかすげぇ」
「三日尻君!」
「うお!? な、なんだよ」
五月女に呼ばれて服を掴まれる。こちらをじっと見つめる瞳は何か言いたげ、寒さで少し赤くなる鼻と紅潮する頬、マフラーに顔をうずめる仕草がキュンとくる。キュンときちゃったよ。
「……」
「え、なんだって?」
「まだ何も言ってないっす」
「じゃあ言えよ」
「そ、その……」
両手をモジモジさせてあっちを見たり俺を見たり。あ、もしかして、
「トレイならその辺の茂みでしてこいよ」
グーパン。コートや重ね着した衣服を貫通して俺の腹にダメージ。さ、さっき食べたピザがリバースしそうだぜ。
「三日尻君の馬鹿」
「お、お前なぁ。クリスマスなんだから殴るなよ」
「……そうっす。今日は特別なクリスマスっす」
なぜそこで声のトーンを落とす。立ち止まり、五月女の顔は真っ赤になっていく。え、なぜに真っ赤?
「……自分。そ、その……えっと、あの……」
「あ、はい」
「み、三日尻君が…………す、すすすすすす……っ!」
「す?」
「……あうぅ、言えない」
口をパクパクさせていた五月女は途端にしゃがみ込んでしまった。両手で顔を覆ってうにゅうにゅと声を漏らして悶えている。
え、えーと、どうした。マジでトイレか? 二発目は嫌なので口には出さない俺マジ学習してる。
「どうしたんだよ」
「あ、うぅ、今日言おうと決めたのに……い、言えないよぉ……っ」
「おーい? 聞こえてる?」
「雪降って二人で歩いて、あぁもうシチュエーション最高なのに……!」
「もしもーし。異世界にトリップしてるのかー?」
今日のお前はホント情緒不安定だな。邦正並みに不安定だ。あの人面白い時と面白くない時の差が激しい。そこが良いんだけどね。
で、何が言いたいんだ。クリスマスの素敵な夜だから告白でもするつもりかい。まさかねー、勘違いしたら駄目だよ三日尻光一。
「あ、あのねっ」
「おう」
「み、三日尻君に言いたいことがあるっす。聞いてほしいっす」
「ええで」
「すー、はー……。言うっす! じ、じじじ自分はみ、三日尻君が……!」
……。
「三日尻君が……す、す、す、三日尻君と手を繋ぎたいっす!」
「……おう」
「……あ、あれ?」
なんで言ったお前がきょとんとしているのさ。こっちのリアクションなのですが。
「あ、今のは違って、いや違うことはないかも手は繋ぎたい、じゃなくてえっと、あうぅ」
「……いいぞ」
「ふえ?」
「ほら、行こうぜ」
五月女の手を握る。スベスベなのに柔らかくて暖かい。手を握っただけで心臓が高鳴って、それでいて心が落ち着く。
ヤベ、手を繋ぐってこんなにもドキドキするんだな……。
「みみみみ三日尻君!?」
「んだよ。お前が言ったんだろ」
「そ、そうっすけど……うぅ~!?」
……いいから歩くぞ。手を引っ張る。五月女は「あうあう」言いながらも慌てて追いついて俺の隣に並ぶ。……並んで、手を繋いで、歩く。
「……これはこれでいいかも」
「何か言ったか?」
「なんでもないっす。えへへ、散歩するっすー!」
五月女も手を握り返し、二人の手がさらに熱を増す。
またテンション荒ぶってきたなこいつ……やっぱ五月女はこうでなくちゃ。
「三日尻君」
「なんだよ」
「また今度言うっす」
「何をだ」
「えへへ~」
「……意味分からん」
気づいたら互いの指を絡めて手を握る俺らは、またいつものようにくだらない話をしながら雪降る夜道を歩いた。