1 テレビゲーム
「なぁ五月女」
「どうしたんすか三日尻君」
「試合前にコールド制の設定をしなかったのはどうしてだ?」
「それは三日尻君をボコボコにする為っすよ~」
俺の隣に座る女の子は嬉々とした声で答え、ニコニコと笑いながらパワーEの選手でホームランを打つ。テレビ画面に映る『99対0』の表示。
「もうやめようぜ……」
「何言ってるんすか~、控えにいる投手全員をボコボコにするまで終わらないっす」
楽しげに笑っているこいつの名前は五月女乙葉(さおとめおとは)。大学の友達。
明るい性格で、パッチリとした瞳と亜麻色の髪が特徴的だ。
「ここで代打っす~。敢えてピッチャーを打席へ送るっす~」
今度はパワーGの選手にホームランを打たれた。そんなことありえるのかよ……。
心折れた。俺はゲーム機の電源ボタンを力強く押す。
「あー!? 良いところだったのに何するんすか!」
「黙れ。ここは俺の部屋でこれは俺のゲームだ。故に俺が全てを決定する、つまり俺が神なのだ」
「99対0で負ける神が何言ってるんすか。大学生にもなって切断するとかダサイっす!」
五月女は頬を膨らませ、恨めしげな目で俺を睨んでくる。そしてコントローラーの尖った部分で頭部を殴ってきやがった。
「大人げない三日尻君を成敗してやるっす」
「おい、なぁおい、ちょ、やめて。思ったよりコントローラー痛い。しかもピンポイントで頭頂部に打ち込むのやめて」
何この子、どんなに抵抗しても必ず頭頂部を叩いてくる。地味に、いやものすごく痛いんだけど。
「三日尻君のアホー、っす! 自分もう帰るっす!」
俺のつむじにも99打を叩き込んだ五月女は荒々しく扉を開けて部屋から出て行った。
部屋に一人残された俺、とりあえず頭部を触る。
「マジで痛かった。禿げないかな?」
二十歳になったばかりなのに頭皮を気にしてしまうとは惨め。でも禿げたくないんです。今からサクセスしようかな。あ、この野球ゲームのサクセスじゃなくて育毛シャンプーの方ね。誰に説明してんの俺?
「三日尻君」
「んあ?」
玄関の方から声が聞こえた。
ドアを少しだけ開いてひょこっと顔を覗かせた五月女がこちらをじぃーと見つめて、
「また明日っす。バイバイっす」
そう言うと今度はそっとドアを閉めた。
また明日も来るのかよ。いやあいつ結構な頻度でウチに来るけどさ。
「……今のうちに特訓しておくか」
ゲーム機の電源を入れてコントローラーを構える。今日ものんびりとした日になりそうだ。