鞄を見つけて君を想う。
(あーあ。)
思わず溜め息をつくのを抑える。
今日から定期テストが始まり、疲れ切ってしまった。それでも気持ちを切り替えて、明日のテストに向けて勉強しなければならないのだ。
(自習室行くか。)
ここの自習室は席が少ないものの、使う人も少ないのでいつも空いている。仕切りは無く、程よく他人から刺激を受ける為、意欲が高まるので私が気に入っている勉強場所の一つだ。
自習室のドアを開け、席を探す。
(あ…!)
見覚えのある鞄が目に入った。持ち主は席を立っているようだ。一目で持ち主を連想してしまう、その鞄。
期待が高まる。同じ鞄を持った別の人の可能性も十分ある。でもどうしても期待してしまう。
その席からは少し距離があるが、視界の端にその席が入り、持ち主が帰ってくるのを自然に認識出来る、そんな位置に無意識に座っている自分に笑う。
(集中しなきゃ。)
気になりつつ、問題集を広げて解き始めた。
(…!)
どのくらい時間が経っただろう。
自習室のドアが静かに開いた。顔を上げ、声を掛けることはしないが、間違いない。彼だった。
心拍数が上がる。表情には出さないように、また気付かれないようにしながら、彼の様子をうかがう。用事が済み、帰り支度をするようだ。
声を掛けたい。だが自習室は会話が禁止である。そもそも盗み見るような私に、彼に直接声をかける勇気などは無い。
あと少しで、目の前を通り過ぎる。
最後だけでも見たいと顔を上げると。
彼と目が合った。
《ばいばい》
言葉は発さず軽く手を振りながら、彼はそう口を動かし、にっこり笑った。
その後、私のテスト勉強の意欲と物思いに耽る回数とが、同時に高まったのは言うまでもない。
不意打ちの笑顔って反則だと思う。
お読みいただき有難うございました。