窓際族へのサンタクロース
彼、羽島洋介はいわゆる窓際族であった。窓際すぎて落っこちそうな、窓際族の中の窓際族。
今年で44才になろうかというのに、いまだに独身。これという業績も立てられず、就職からこの方20何年間、ずっと平社員である。多分、定年退職まで平社員だろう。いや、まず定年退職までここに勤められるかである。
そんな彼は、今日も残業のため1人オフィスに残っていた。
「何でこんな日まで残業なんだよ……」
今日はクリスマスイブ。彼の同僚も、忙しなく帰っていった。大方、また子供に夢を与えるのだろう。
「サンタクロースなんて、馬鹿らしい」
開けっ放しになっている窓から、クリスマスソングが聞こえてくる。それと同時に、楽しそうなカップルの声も。
窓の外を見てみると、カラフルなイルミネーションが目立った。
「いい気なもんだよなぁ……。こっちはまだ仕事してんのに」
ため息をつくと、自分の机に向き直った。机の上に積まれた書類の山。それを見ると、彼のやる気は否応なしに下がる。
「もう、こんな会社辞めてやるー!」
それを言うのは何回目だろうか。いくら辞めたくても、辞めてしまったら生活が大変になる。
「本当にサンタクロースがいるのなら……」
彼が呟いた、その時だった。
「ふぉっふぉっふぉっ。呼んだかの?」
窓際に、誰かがいた。
長すぎる白いひげに、真っ赤なサンタクロースの衣裳。
「何だよ、泥棒か?」
「ふぉっふぉっふぉっ。ワシはサンタクロースじゃ」
「は?新手の泥棒か?」
「信じないのか?まあ、それはお主の勝手じゃがの。今日は、こんな日にも残業に励むお主にプレゼントを届けに来たんじゃ」
「プレゼント?」
サンタクロース(自称)は、担いでいた袋から書類の束を取り出した。
「これじゃよ。お主の同僚に頼まれての」
「はぁ!?」
「ふぉっふぉっふぉっ。ここに置いていくからの」
そう言うと、サンタクロース(自称)はどこかへ消えた。残ったのは、彼が置いていった書類の束のみ。
「……」
彼は、呆然としながら書類の山を見つめた……。