Re:
『カナシイは痛いですか?』
無機質な電子音で彼女は言った。
彼女、と言ってもそれはアンドロイドであり、生き物ではない。
『痛くはないよ、死にたくはなるけどね。』
私にとってのカナシイはそういうものだ。
『わたしにはわかりません。カナシイもウレシイも。だからあなたを守れます。』
プログラムされた笑顔で彼女は笑った。
彼女は私の愛した女性と同じ顔で。
だけども彼女はアンドロイドだ、本物が笑う時は八重歯が覗く。
その点は再現されていなかった。
『今日はどうされますか?』
『何もしたくない。』
『かしこまりました。』
そういって彼女は部屋を出て行った。
『誰も私を許してくれない。許してくれる人もいない。このまま、ずっとこのままなのだろうか。』
この場所で彼女と生活し始めてからもう数年が経つ。
過去に私は大罪人だったらしい、遠く記憶も霞、覚えてはいない。
覚えていないことこそが私の犯している罪なのかもしれない。
誰もいない、穏やかな地獄で私はどんな夢を見ればいいのだろう。
彼女は何から私を守っているというのだろう。
大罪人の私に復讐しにくる誰かがいるのだろうか。
もしもいるとしたなら私は早くその復讐者に会いたいと思う。
この地獄を終わらせてくれるなら、私はなんだって受け入れるだろう。
たとえそれが、私と同じような罪を負わせることになっても。
彼はやがてくるだろう。
かつての私と同じように、復讐をしに。
この椅子が空き、また誰かが座る。
決められた地獄をまた繰り返すのだ。
『あなたを守れます。』
最後に聴いた彼女の言葉が優しく脳裏に響いた。
いつぶりかの涙が流れていた。
『カナシイは痛いですか?』
アンドロイドは傍に立ち、また私に問いかけた。