突然の話
「梓、いい話持ってきたわよ」
梓の母、島崎亜美はとても笑顔だった。
「道長さんにはまだ通してないけど、梓にお見合い話が来たの」
お見合い、その言葉に梓は驚いた。
まだ高校生である自分には早いと思っていたのだ。
「相手はスザクビールで有名な永尾社長のご子息よ」
永尾、その名前に更に驚く。
「まさか、永尾庵?」
梓は呟く。
「それは弟さんの方ね。相手は跡取り、長男昴さんの方よ」
更に驚いた。
梓は庵に気に入られている。だからてっきり庵だと思ったのだ。
しかも、大会社の社長子息で兄弟が居たのも驚きだった。
「きっと道長さんも気に入るわ。物凄く格好良いのよ」
母はとても乗り気だった。
その日の夜、早速見合いの話をする。
だが、勿論乗り気では無かった。
「梓にはまだ早いと思うのだが…」
「そうかしら?スザクビールなら申し分無いとおもうけど、政財界とかの方がいいしら?」
「そういう事では…梓はどうだ?」
「私より姉さん…」
「あの子の結婚相手は決まっているからいいのよ」
母はピシャリと言う。
この場に姉、歩美は居ない。
母親に脱落の烙印を押され、引きこもりとなったのだ。
あとは親の決めた相手と結婚するのみだ。
「とりあえず、保留で…」
「わかったわ。一週間後に了解の返事を出すから心を決めて頂戴ね」
「…はい」
それはもう、決まった事だった。
巴の気持ちはこんなだったのか、そう梓は思った。