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久々の帰還
「久しぶりだな」
「ええそうね」
学生は夏休みであるこの時期、一組の親子が駅に降り立つ。
「柚、早くタクシーに乗りましょう!」
「うん!」
こうして、二人はタクシーに乗った。
「いい感じだねぇ」
「ええ、店付の物件って中々無くて大変だったのよ」
「本当にやるの?」
「勿論!」
柚の母は、やる気に満ちていた。
「貴方と一緒に居る為なら何でもするわ」
キャリアウーマンの道を捨てて選んだこの道を、彼女は後悔していない。
引っ越し車も到着しこの日からここが彼女らの、高梨由貴子と柚の新しい家となった。
「新学期までは忙しいわよ、家もだけど転校手続きにカフェの準備もだからね」
「わかってる、お母さん」
ニコリと柚は笑顔を見せる。
両親が死んで引き取ってくれた母の親友、柚はそんな由貴子が大好きだった。
「後で墓参りも行きましょうね」
「うん」
由貴子の言葉に、柚は頷いた。
「終わりました、確認をお願いします」
引っ越し業者の書類にサインをすると、再び気合いを入れる。
「柚、これから細かい荷物を整理するわよ!」
「うん!」
こうして、二人は家の中に入って荷物を解き始めた。