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約束の不履行
「二人とも、落ち着いて。そうだ、今日出る前にね下の階の藤田さんに聞いたんだけどね、来週転勤で引っ越すそうだよ」
「だから?」
瞳は近所付き合いなどしない。
興味が無いからだ。
「そうだ、同じマンションで一人暮らしさせたらどうかな?それなら安心だろう?」
「家で暮らせば問題無いわ」
「なら、巴さんの所へ行きますよ」
それは、瞳にとって一番嫌な一言だった。
「それだけはやめなさい!」
瞳は咄嗟に声を荒げてしまう。
「仕方ないわね、同じマンションは許可します。ただし、それまでは家から通う事」
「ありがとうございます」
こうして交渉は成立した。
「そういえば言うの忘れてたんだけど、あなたと巴さんの婚約は無かった事になったから」
ささやかな仕返しか、瞳は突然言う。
本当は巴本人に言わせるつもりだったが、瞳はそれをやめたのだ。
「彼女に彼氏が出来たと報告が来たわ」
瞳は勝ち誇った様に言う。
知はそれを見て孝明の方を向いた。
「お義父さん、本当ですか?」
「本当だよ」
孝明は苦笑いで知に告げた。