彼氏のフリをしてくれませんか?
「千羽君、話があるの」
放課後、巴は蓮を呼び出していた。
屋上に出るとドアを閉める。
「どうしたの?蓬来さん」
蓮はニコリと笑った。
秋や光は梓に任せている。
此方に来られては困るのだ。
「彼氏に、彼氏のフリをほしいの」
巴は正直に言った。
巴自身は彼氏などいらないし、変な感情を持たれては困るからだ。
「何で?俺である理由は?」
それは、当たり前の疑問だ。
「フリをしてくれるなら教えるわ」
「ふーん…いいよ」
そんな時、喧嘩声と階段を上る音がする。
「光っ!」
「梓、離して!」
階段の音はどんどん大きくなる。
「友達も騙すの?」
「えぇ」
問いの答えに、蓮は考える。
「巴!」
光はどん、と乱暴にドアを開ける。
後ろから梓と秋も続く。
「なんだ、邪魔しないでよ」
一方的に巴にキスした蓮は、三人に向かって言い放つ。
「俺ら、付き合う事になったんだ。勿論、祝福してくれるよね?」
「蓮!」
「光!」
蓮に殴りかかろうとするのを、梓は止める。
「梓、止めないで!」
「光、冷静になって!桃園も手伝って」
放心していた秋は、その言葉で我に帰る。
「お、おめでとう…二人ならお似合いだよ」
無理矢理笑顔を作り言うと、梓と共に光を引き離した。
秋は、ドアを閉めると俯く。
「桃園、退いて!」
「瀬尾さん、二人を祝ってあげよう?」
秋は笑顔で言うが、涙を流していた。
そう、秋は巴が好きだった。
それは光も知っている事である。
だからこそ、光は何も言えなかった。
「巴を泣かしたら、蓮を殺す」
そう言うと、光は踵を返す。
「桃園は偉いね」
「だって僕なんかより、蓮の方が蓬莱さんとお似合いだもん」
梓はポンポンと頭を叩く。
「泣いていいよ」
梓は胸を貸す。
秋はヒクヒクと泣いた。
三人が出ていって巴と蓮、二人きりになる。
「これでよかったの?」
「えぇ、だけど…」
その直後、蓮の頬にビンタの音が響く。
巴は睨んでいた。
「何故キスをしたの?」
「その方が、リアリティー増すじゃん」
「あそこまでする必要は無いわ」
巴は言うと、屋上から出ようとドアへ向かう。
「一つ言っておくわ。あなたを選んだ理由は、あなたが私の事を好きではないから。あなたが私と本当に付き合おうと思った時点で契約は解消するから」
「ふーん…」
巴はドアに手をかける。
ドアを開けると、そこに梓と秋が居た。
秋は、梓の胸に顔を埋めていた。
「あれ?二人仲良いんだ」
巴の後ろから蓮が言う。
「巴…」
事情を知っている梓は複雑だ。
「巴、帰ろう。秋、島崎さん、じゃあな」
蓮は言うと、巴の手を引いて階段を下りた。
「巴、付き合ってるんだから先に帰るのは無しだからな」
それはもう、脅しであった。
もう始まっているのだ、付き合うフリは。