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友達という言葉
「僕と友達になってよ」
秋の純粋な言葉に巴は唖然とする。
何も知らない人なら変り者でない限り言わない。
「何故?」
巴は問う。
嘘を言わない限り、理由がわかるからだ。
「それは…なんとなく?」
一目惚れとは言えず、照れながら答える。
巴は呆れた。
「それが本当なら変り者ね。でも…ありがとう」
巴はフワリと笑う。
秋はそれを見て見とれた。
「桃園君?」
黙ってしまった秋を見て、巴は今度は不思議そうな顔をする。
「どうしたの?」
「な、何でも無いよ!また明日!」
秋は走り去る。
巴はそれを見届けると一人帰っていった。
〈どうしようどうしよう…本当に好きになっちゃった〉
秋は混乱する。
モテモテの蓮とは違い、秋はどうすればいいのかわからない。
一目惚れの謎の女子生徒のままなら、手が届かないし手の打ち用が無い分諦めがつく。
だがそれが蓬莱巴とわかり、更に彼女自身を好きになってしまった。
〈どうしよう、蓮…〉
走りながら、そこには居ない蓮に助けを求める秋だった。