必要としなかった友達
「巴さん、友達は出来まして?」
入学してから1ヶ月後、久々の家族揃っての食事で母に聞かれる。
「はい、出来ました」
巴はさらりと嘘をつく。
「なら、一度連れてらっしゃい。そうすれば私も安心です。ねぇ、あなた」
「そうだな…」
父はいつもそう、母親に賛同する。
昔は優しい父だった。
だが、今の母親に見初められ結婚してから父は変わってしまった。
言いなりなのだ。
「そうね…次の土曜に連れてらっしゃい。迎えを近くに寄越すからそれで自宅に向かいなさい」
「はい…」
言いなりなのは自分自身も変わらない。
手帳を見て勝手に予定を決めた母親に抵抗しないのだから。
食事と風呂を終えると部屋へ向かう。
母親はもう屋敷を出た頃だろう。
「巴、すまないな」
父は部屋に来ると謝る。
父の名は蓬莱孝明、今は高木孝明だ。
巴の父は義母である高木瞳の婿養子に入ったが、巴は養子縁組みしなかった。
義母が望まなかったのである。
本人である巴も心の中では嫌だと思っていたので有り難い。
父が去った後、考える。
友達は居ない、必要としなかったから。
関心は持たないが余計な事をする義母に、急遽友達役が必要となってしまった。