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喫茶店シトロン
「いらっしゃいませ」
その声と共に、長髪をひとつに束ねた美人の女マスターが出迎える。
最近出来たカフェ、シトロンだ。
「あっ、蓮!」
私服にエプロンの少女が、嬉しそうに青年に駆け寄る。
「いらっしゃい!ませ!」
マスターの娘は、予約席と書かれた奥の席へ案内する。
「飲みものどうする?」
「じゃあ、アイスティーで」
予約席の札を持って少女は戻る。
「柚ちゃん、手伝い偉いね」
「鴨志田さん、いらっしゃい!」
「柚、お手伝いありがとう。もういいわよ」
「わかった、お母さん!」
「柚ちゃん元気だね、由貴子さん」
ホットコーヒーを飲みながら、女マスター由貴子にそう言う。
客の鴨志田浩二は、高梨由貴子の元彼だ。
出版社勤めで、彼女に翻訳の仕事斡旋もしている。
「納期と金額、大丈夫かい?」
「ええ、いつも長めに取ってくれるから余裕でできるわ」
「それはよかった」
浩二は由貴子に微笑む。
今でも由貴子が好きで、柚が成人しても独り身だったらと約束している。
柚はそうでなくても結婚を許しているが、二人がそう決めたなら特には口を出さない。
柚は二人分のアイスティーを持って青年の所へ向かった。