103/113
栞
「そう、弟が私を毛嫌いしだした理由探ろうにも兄が腑抜けでできないの」
お手洗い前に行くと、トイレ内で栞が電話していた。
だが、さっきまでの栞とは全く違う。
「結婚できたら金持ちじゃん?あいつにはそれぐらいの魅力しか無いって!優柔不断で、意志が無いんだもん。まぁだからやり易いんだけどね」
その後、笑い声が聞こえる。
「まぁね。でもさ、正直社長だって意志のある弟の方が向いてるでしょ!誰か補佐しないとあっという間に会社つぶれるよ?社員可哀相」
そう話していると、友人が何か言ったのだろう。
話を切り上げる。
「そうだね、じゃあ後で電話するわ。じゃあね!」
そうして、栞は電話を切った。
「あら、梓ちゃんも御手洗い?」
「はい…」
「何か聞こえた?」
「いえ、別に…」
「そう、じゃあ私は戻るわね」
「はい」
そうして栞は去っていく。
「なるほどね…」
梓は呟く。
これで庵が栞を嫌う理由がわかった。
きっと、猫を被っていない時の栞を偶然見たのだ。
だから態度が変わったのだろう。
と梓は思ったのだった。