昴と栞
「なにを食べる?」
栞はメニューを見ながら昴に問う。
「梓ちゃんも気になるのがあったら言ってね」
栞は笑顔で言う。
とても印象の良い女性である。
注文をして、直ぐに話題を振ってくれる。
「庵君の友達なんだよね?学校ではどんな感じなの?」
直球の質問に、梓は困る。
梓にとって、庵はあくまで警戒対象なのだ。
「とても優秀ですよ。もう1人の友人にこの間勉強教えてましたし」
「庵君、もう友達が出来たのね」
「ええ」
栞の言葉にそう答える。
強ち嘘では無い筈だからだ。
「羨ましいわ。庵君最初は程々に親しくしてくれていたんだけど、急に邪険に扱われて困っているの」
「急に?」
「彼に何もしていないから、何故だかわからなくて」
「理由聞けばいいじゃないんですか?」
「それが、答えてくれないから困ってるの」
「……」
二人で話す間、昴は黙って聞いているだけだった。
「昴さんは意見はありませんか?」
梓はそう問う。
だが、昴は少し困った顔をするだけだった。
「栞も言っていたけど、具体的理由を言わないんだ。仲良くしてほしいんだけどね」
これを梓は見て思った。
昴は自分の意志が少ない、そういう人間なのだと。




