2-2烏賊狩人
烏賊狩人
森林烏賊(コウイカ目シンリンイカ科)
体長 三十センチ程度
営巣場所 海辺近くの森林(近年では奥地でも見受けられる)
食性 動物食性
狩人組合に属する、烏賊狩人はいわゆる漁師ではない。漁師は海
において水産資源を捕獲する者であるが、彼らの活動場所は、森の
中である。烏賊狩人の主な獲物は森林烏賊だ。
森林烏賊は名が示す通り、森の中に生息する烏賊である。どのよ
うに進化をしたのかは不明だが、海中に住んでいた烏賊が陸地に上
がり生活できるように進化を遂げたようだ。もちろん、海中にも烏
賊は存在している。
十腕形類に属する、森林烏賊も八本の腕と二本の触腕を持つ。腕
は移動や捕食活動等に用いられる。触腕に吸盤はあるが海に住む烏
賊と異なり、やや硬く骨ばっている。どちらかというと、軟骨上の
爪に近い状態になっている。体長は三十?と一般的な海に住むコウ
イカより若干大きい。
コウイカ目に属する森林烏賊も、皮膚の色を、周囲の色と同化さ
せる擬態化の機能を持つ。捕食者から身を隠す、捕食する獲物に気
づかれないようにすることに使われている。
移動は樹を伝わって移動する。腕につく吸盤状の爪を引っ掛けな
がら、樹を登る。面白い点は、樹と樹の間を移動する際に、短距離
ながら滑空をすることだ。外套膜まで伸びた「ひれ」を広げムササ
ビやモモンガの様に滑空し移動する。そのため、樹上での生活へと
進化したのではないかと思われる。
この烏賊が、海から陸へ住むに至り捨て去った機能は。、墨を吐く
事だ。仮説としては、海の中と違い、排出した墨が上手く散ること
がなく捕食者から視界を遮るのに役立たなくなったためではないか
と思われる。
森林烏賊は動物食性で、専ら昆虫類を好んで食べる。(他の動物類
を食べないわけではない)特に、甲殻をもった甲虫類が好物である
とようだ。
樹上で生活を営み、擬態で身を隠し、短いながらも滑空をする森
林烏賊を狩るのに必要なの物は弓と擬態を見破る目だ。
又、多くの烏賊狩人が、擬態する森林烏賊を見つけ出すために専
門の猟犬を飼い、狩りに同行させる。烏賊狩人は、どの狩人より我々
が思い描く狩人の像に近いと言える。
但し、狩りの対象は想像しがたい生き物ではあるが。
尚、獣人種が烏賊狩人になることはない。彼らの多くが森林烏賊
を食することが出来ない体質であるためだ。
「獣人種の代表格である犬人族、猫人族達は森林烏賊を余り口にす
ることはありません。全く食べられないわけではありませんが、量
を多く食べると一時的に麻痺ににた症状が出て、足腰が立たなくな
るようです。獲った獲物を食せない。そのため烏賊狩人を目指す獣
人種はいなくなるのです」(狩人組合担当者談)
烏賊狩人の対象である森林烏賊は駆除の対象ではない。こちらか
ら手を出さない限り、我々より小柄なこの烏賊は人に対して攻撃を
加えることは滅多にない。森林烏賊は専ら食糧として、狩人組合で
取引きされる。
「海に住む烏賊と違って、多少日持ちの良いことが特徴です。海の
烏賊は干物にでもしない限り、術を用いないと一日で腐敗が進んで
しまいますからね。海産物特有の生臭さもないですから、海の烏賊
より好きな方は多いようです」(狩人組合担当者談)
「擬態をするということで取りにくい獲物と思われがちだが、比較
的多く生息していることと、攻撃性が小さいことから捕獲量も安定
している。但し、取引価格もそれなりだ。そのため、日々そこそこ
の量を捕獲しないと生活が苦しくなる。他の狩人と比べると、狩り
に行く日数は多いと言えるだろう」(狩人組合長談)
烏賊狩人は、ほぼ毎日のように狩りに向かう。日持ちが良いと言
っても2〜3日で腐敗は始まるので、朝狩りに行き夕方には拠点に
戻り狩人組合に、引き取ってもらう。この日々の繰り返しだ。
「単調なようだけど、他の狩人より危険性は少ないし、きちんと狩
りをこなせれば日々の暮らしも安定するから、下手な狩人より気は
楽なものだよ」(烏賊狩人談)
だからと言って、誰もが烏賊狩人になれるわけではない。的確な
弓の腕と、擬態を見破る目は直ぐに会得できるものではない。
烏賊狩人の狩りは、基本的に単独で行われる。各々が、独自で狩
場を見つけていくようだ。あらかさまな線引きは行われないが、狩
場があまりかち合わない様に、毎朝、狩人同士で行先きを確認して
から狩りに行く。烏賊狩り班は狩人組合とは別に独自規則を設けて
いる。
単独行動を行う烏賊狩人の重要な相方として「猟犬」が存在する。
彼らは擬態する森林烏賊を、臭いで探し出し、標的の確保を行う。
「猟犬の嗅覚がなければ、まともな狩りは成り立たなくなるだろう。
又、例え猟犬が的確に標的を捕らえても、我々がその標的を視認で
きなければ意味はない」(烏賊狩人談)
烏賊狩りで扱う矢は、木を尖らせただけの矢を用いる。森林烏賊
は、海に住むときと同じく軟体のままであるため、石や鉄の鏃を用
いなくとも十分に通用する。
「石や鉄の鏃を持たないわけではないよ。ただ、矢羽を確保するた
めの鳥を捕獲する時に使うから、烏賊狩りには直接関係しないね。
数多くとる烏賊に、高い鏃を使うともったいないから」(烏賊狩人談)
ちなみに烏賊狩りにおいて、術での狩りは推奨がされない。矢よ
り威力と範囲が大きくなる術を行使すると、獲物の損傷が大きくな
り取引価格が安くなるからだ。又、罠狩りも行われることがない。
「あいつら何故だか知らないが、罠に掛からない。餌なんかで釣ろ
うとしても大抵餌だけを上手い事取っていきやがる」(烏賊狩人談)
引き取られた烏賊は、貴重な食料となるが日々の食卓に何度も上
がる訳ではない。安定した価格と言っても、狩りで取れる量は限ら
れるため一般庶民が毎日買える値段ではない。海の烏賊に比べると
日持ちが良いと言っても、何か月も腐敗をしないわけではない。
獲られた烏賊は専ら干物や燻製などに加工され、保存食として扱
われる。これらは、長期の狩りや旅、探索に行くときに携帯食とし
て用いられる。
「俺らは、保存食の方は余り口にしないね。あれはあれで、独特の
旨みがあって美味いが、そこそこ好い値段がするからね。俺らは、
毎日の獲物だから、全部売らずに食い扶持に充てるのさ。軽く炙っ
たりすれば、美味しいからね」(烏賊狩人談)
余談となるが、森林烏賊は知能が高いのではと思える節がある。
先述の烏賊狩人が言う「罠に掛かりにくい」のは「罠を見破る」知
能があるからではないかと思われる。又、次のような興味深い話も
聞けた。
「俺は見たことがないが、別の地方を旅した冒険者の一人が、森林
烏賊が「狩り」をする場面を見かけたらしい。信じられんが、群れ
で樹上から固い木の実を投げて、大角甲虫を倒そうとしていたらし
い。最後は、イラついた大角が樹をなぎ倒して、散り散りに逃げた
らしいが。…与太話だとおもうがね」(烏賊狩人談)