甲虫狩人
甲虫狩人
大角甲虫(コウチュウ目オオコガネムシ科)
体長 二メートル〜三メートル程度(角を含む)
営巣場所 森林
食性 幼虫 腐植物食性 成虫 植物食性
甲虫狩人は昆虫系の狩人の中でも、人気のある花形であるが、
その狩りは危険性が高い。
甲虫系の昆虫は、武具・防具の素材として高値で引き取りさ
れる。特に人気があるのは、一匹からとれる素材の寸法が大き
いため、取引きの値段が高くなる「大角甲虫(オオツノカブト
ムシ)」である。
大角甲虫の特徴は、名が示す通りの大角を頭部に生やしている。
その長さは、角だけでも大体百二十センチを超えることが一般的で
あり
大きいものは、百八十センチを超えてくる。
角の先端は、一般的な甲虫と異なり二股に分かれる程度である。
胸にも小型の角を生やしており、これらの角を巧みに操り敵を撃
退する。
ときに、彼らはこの角を用いて敵対者を捕殺することがある。
植物食性である彼らにとって「肉」は食物にはならないが、「血」
は水分と栄養を補給できる貴重な資源となるからだ。
「大角甲虫は角を用いて獲物を捕殺する場合は、大角で突き刺した
後、角を左右に揺さぶり根元付近まで移動させます。
捕殺した獲物を高々と掲げ軽々と揺さぶりズリ落す様は雄々しく、
恐れを抱かせるには十分な光景と言えるでしょう」
(狩人組合担当者談)
角の根元まで運ばれた獲物の血は、口元まで垂れ落ち静かに
補水される。しかし、彼らはなぜ獲物を角から外さず、あえて
角の根元まで突き刺すのであろうか?
「大角甲虫は、特定の大型樹木の樹液しか食べない。貴重な食糧で
ある大樹を枯らすわけにもいかないから、水分補給に関しては他の
生物から取ることにしているのであろう」(狩人組合長談)
「奴らが生息してい大樹の周りは、捨てられた死体や骨が散らばっ
て、山積みになっている。逆に言えば、そういう場所には必ず大角
がいることになるわけだ」(甲虫狩人談)
若い冒険者や新米狩人達は、角に刺さった獲物を見て恐怖ですく
む事もあるそうだ。
「始めて出会った大角には参りました。角に三体もの獲物が刺さっ
ていたんです。そのうち一つは干からび始めたヒトの遺体です。根
元に行くにしたがって、腐敗し、干からび始めている獲物をどこと
なく誇らしげしているようで、本当に足がすくみました」(若手甲虫
狩人談)
大角甲虫狩りは日中に行われる。大角甲虫も他の甲虫と同じよう
に、夜行性のため主な活動は夜間に行われる。日中は、エサ場とな
る樹の上部に潜み睡眠を行う。
「活動的な夜間に狩りをすれば見つけやすいだろうって言うが、活
動的てっことは攻撃的でもあるわけだ。あんなものと、まともにや
り合えばこっちの命は幾らあってもたりゃあしねえよ」(甲虫狩人談)
「優れた武具や防具の素材となる、大角甲虫の甲殻は強固だ。並の
武具や力では傷をつけることもできない。又、巨体にも関わらず素
早い動きをするために、活動的な夜間に挑むのは自殺行為と言えよ
う。」(狩人組合長談)
大角甲虫狩りは十から十二人の大規模な狩りとなる。それでも一
月に、一体手に入れば、一人当たりの生活費として十分に元が取れ
る。
狩りはまず、大角甲虫の住処を見つけることから始まる。住処と
思われる樹が発見されると、身軽な狩人の一人が樹を登り大角甲虫
を探す。見つからないことも多い。目印となる骨や死体が、森の掃
除人達(火間虫や蟻)によって片付けられていることがあるからだ。
大角甲虫を見つけると、まず、胸の角に輪を作った縄を引っ掛け
下に降ろす。この作業を乱雑に行うと、大角甲虫が目を覚まし、樹
上で襲われる事になる。
「縄掛け」作業は、樹上からの落下の危険性と、大角甲虫に襲わ
れる危険性を伴う、死亡率の高い作業だ。
縄掛けが終わり、降ろされた縄は樹から仲間が降りきった段階で
引っ張られ、大角甲虫を下に落とす作業が執り行われる。この「縄
引き」作業は、大体全員で行われる。
「大角は何しろ力が強い。鉤爪状の脚の爪を樹に食い込ませ、なか
なか落ちない。縄の点検を忘れて、傷んだ縄を使うと途中でちぎれ
ることもある。そうすれば狩りは失敗だ。起きた状態の大角を相手
にして、樹の上で行う縄掛け作業は命を無駄に落とすだけだ」
(熟練甲虫狩人談)
無事に引き落とせたあとは、縄を手放し全員で手にした槍を武器
に、仕留めに掛かる。落ちた際に「返し」(あお向けの状態)であれ
ば、狩りは有利に進めることができるが、「起き上がり」の状態であ
れば危険性は高まる。
「落ちた後も、寝起き直後のため大体は動きが緩慢だ。できれば子
の間に仕留めたい。時間経つと覚醒し、動きが素早くなり、厄介な
狩りに変わる。大角甲虫の狩りは、特に時間との勝負だ」
(甲虫狩人談)
大角甲虫への攻撃は周囲を取り囲み、頭部や腹部の節々を標的に
する。素材を傷つけないということもあるが、そもそも生半可な武
具や力ではでは強固な甲羅を突き通すことが出来ないためである。
「大角甲虫狩りに盾役はいない。彼奴らの角は、鉄製の盾でも容易
く突き通してしまうからだ。彼奴等の攻撃はひたすら躱す。角で刺
されれば終わり、脚で捕らわれても彼奴の力で抑え込まれて終わり。
攻撃を受ければ、即死だ。」(熟練甲虫狩人談)
この狩りの方法は、雄でも雌でも変わらないが、素材としては大
角がない雌は若干取引価格が安くなってしまう。
しかし、例え雌が獲物だとしても甲虫狩人達は簡単には落胆をし
ない。周辺に朽ちた倒木がないかを探し、「卵」や「幼虫」を見つけ
出し捕獲する。
「大体一つの倒木に五〜六個の卵か、二匹位の幼虫がいる。卵の
大きさは十センチ位、幼虫は三十〜六十センチ位だ。蛹化する前の
奴は地中深くに潜るから、流石に見つけるのは困難だ。見つけてど
うするのかって?
もちろん、食うんだよ。旨いんだ。
卵はそのまま焼けば、中身がアツアツでとろけるような汁が食え
る。幼虫は、持って帰って、二〜三日絶食させた後、焼いて食うと
皮はパリパリ、身はトロトロでいい感じなんだ。」(甲虫狩人談)
幼虫は直ぐに食うと糞の味が混じり旨くないとのことだ。成虫の
身も甲羅等主要な取引部分を剥ぎ取った後に、焼いて食べる。身は
プリプリして、非常に旨いが、日持ちがしないため市場に上がるこ
とはない。
大角甲虫の狩りは年間を通して多くの犠牲者を出す。しかし、素
材の取引価格の高さから挑むものは多い。高い危険性に挑み獲る、
多額の金。
最近は、大角を素材とした槍と、胸郭を素材とした兜が流行らし
い。その武防具を身につけた者は、危険な狩りを成功させた証とし
て、若い狩人や冒険者達から羨望の眼差しを受ける。