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狩人目録  作者: マ・ロニ
昆虫編
5/21

蝗狩人

 蝗狩人


 皇帝蝗(バッタ目イナゴ科)

 体長   三十センチ程度

 営巣場所 草地・湿地・畑

 食性   幼虫・成虫共に植物食性


 皇帝蝗(コウテイイナゴ)は、専門的に狩る狩人はいない。

だが、狩人組合では、単価が安いながらも、常時「駆除」の

依頼がされている。


「依頼主の多くは集落の長が行っています。常に駆除を行わないと、

作物を食い荒らされる恐れが高くなるからです」(組合関係者談)


 皇帝蝗は、大きく群れを成すことはない。いわゆる、大規模な蝗

害というのは、もっと小型の昆虫で飛蝗バッタの類が起こすも

のだ。


 しかし、皇帝蝗は一匹の体長が大きく、食する量も多い。農家と

しては見逃すことができない昆虫である。万が一、駆除をせずに放

置すれば、自分の耕作地どころか他所にまで被害を及ぼす恐れがあ

る。その為、集落全体で金を出し合い、狩人組合に定期的に依頼を

出すのが常である。


 蝗という昆虫は、何でも食べるという印象が強いが、皇帝蝗は、

成虫になっても植物食性のため、人や家畜を捕食のために襲うとい

うことはない。


 だが、噛む力は強いため、肌のうえから直接齧られれば肉ごと抉

られてしまうので油断はできない。もちろんきちんとした、防具を

装備していれば大きい被害は防げる。


「革製の防具を身にまとっていれば、まあ問題はないさ。飛びか

かるところを注意して攻撃すれば、楽に狩れるもんだ。

 しかし、注意してえのは、木製防具や布製防具で挑んじゃあなら

ねえ。やつら、植物性の物なら何でも食っちまうから、木の盾なん

かも、ぼりぼりと食っちまう」(狩人談)


「以前、草叢に潜んでいた皇帝蝗に襲われたことがあります。と

っさに杖で打ち払おうとしたのが間違いでした。気が付けば、杖の

先端に噛り付いていたんですよ。慌てて、火の術で倒しましたが、

先端の部分は結構食べられてて……」(術士談)


 ちなみに、一般的な服においても食べられてしまうため、農家の

人達も発見した時は、最寄りの狩人に知らせることを基本としてい

る。慌てて追い払おうと挑んだ結果、農具や自分の服までも食べら

れてしまい、這う這うの体で逃げ出すことになる。


 先述の通り、蝗狩人という専門職はない。手の空いた様々な狩人

や、獲れる獲物がまだ少ない新米狩人が稼ぎの足しとして狩りを行

っている。


「もう一つの理由としては、結構いい食糧になるんだ。羽根や脚を

むしっても結構食いでがある。新米の時分で、金がねえときはしょ

っちゅうこいつを狩って食っていたよ」(熟練狩人談)


 調理方法としては、羽根と脚をむしり取る。又、腹を割いて中の

臓物もきれいに取り除くことが望ましい。その後、木の枝などに差

し、全体をこんがりと焼けばよい。腹を下しやすいため、生食はし

ない。余り日持ちはしないため、狩ってから日を置かずに食する必

要がある。


「豪快な作り方として、わざわざ、生きたまま皇帝蝗を捕らえて大

きい釜に入れて、一日その中で放置してから、直接火を掛けて生き

たまま蒸し焼きにする方法があります」(組合関係者談)


「一日放置する理由かい? 糞を出させてから食った方が臭みが少

ないからだよ。生きたまま焼く理由? 味には変わりはねえんだが、

そのまま火を掛けると鍋ん中でバチバチ飛び跳ねて、いい音させる

んでな。まあ、一種の憂さ晴らしみたいなもんだな」(狩人談)


 大鍋の中の蝗は釜の中のフンを洗い出すために、革の袋の中に取

り出す。ちなみに、釜の蓋は木製なので、蓋と釜の間に集めの革を

挟みこむ。洗い終わった釜の中に、再び蝗を手際よく放り込み、蓋

をして、重石を乗せる。そして火がつけられる。


 火が付きしばらくすると、その熱さから蝗はバチバチと勢いよく

中で飛び跳ねる。しだいに、音は小さくなり適度に時間を置けば蝗

の蒸し焼きの完成である。


 食べる際は、処理しなかった脚と羽根を毟る。人によっては、脚

も食べるとのことだ。


「味付けは大概、塩味だね。蜂狩人や蟻狩人が手持ちの蜜を付けな

がら焼くと旨いっていうが、奴らでないと蜜を手に入れること自体

が高くつくから、わざわざ、そこまではしないな」(若手狩人談)


「旨い、不味いはともかく、狩りに不慣れで、ろくに獲物が手に入

らない貧しいときの良い食料になることには間違いがない。飢え死

にするよりかは、ましだと思わなければいかん。

 なにしろこいつは、草叢や畑の回りを探せば、比較的簡単に見つ

かり、装備を間違えなければ捕獲も容易だ。味・見た目、そんなも

のにこだわっていれば、狩人にはなれん」(狩人組合長談)


 『稼ぎがなければ蝗獲れ、いずれ実りの役に立つ』狩人たちの合

言葉のようなものであると、狩人組合長に教えられた。


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