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狩人目録  作者: マ・ロニ
昆虫編
4/21

亀虫狩人

亀虫狩人


 宝飾亀虫(カメムシ目イシカメムシ科)(又は美食亀虫)

 体長   十センチ程度

 営巣場所 草地・畑

 食性   幼虫・成虫共に植物食性


 鉱石亀虫(カメムシ目イシカメムシ科)※複数種あり

 体長   九十センチ程度~

 営巣場所 草地・畑

 食性   幼虫は植物食性 成虫は動物食性


 亀虫狩人の一番の獲物は、実入りが大きい「宝飾亀虫」と言える。


「宝飾亀虫は、滅多に獲れる獲物ではない。その分、価値が高い。

名前の由来の通り、加工すれば宝石のように美しい輝きを放つため、

特に王侯貴族や、大富豪の商人達に高値で取引される。

 一匹獲れれば、三年は狩りをせずに遊べる程の値段で取引がさる

だろう。大きさや物によっては、それ以上になるかもしれん。但し、

加工前は臭いがね」(組合幹部談)


 宝飾亀虫は希少種のため、見つけるのは「運」しだいである。極

まれに農家から駆除を頼まれるが、その場合は組合に所属する亀虫

狩人の中から抽選で依頼の受け取りを決定することになる。但し、

この場合、捕獲の成否に関わらず、依頼料は発生しない。


「まあ、わしらもあの亀虫の価値についてはよく知っているが、や

はり、素人が獲るのは難しいんじゃよ。欲の張った奴が、まれに獲

ろうとするらしいんじゃが、大抵、臭いにやられて眼ぇ回してぶっ

倒れる位、臭いんじゃから」(年老いた農夫談)


「宝飾亀虫に拘らず、他の亀虫系統も農家にとっては天敵と言えま

す。万が一、発生に気づかなかったり、無理に自分で捕獲しようと

として何日も経過すると、その間に農作物が全て食い荒らされてし

まうからです。」(組合担当者談)


 しかし、宝飾亀虫が見つかった農家は一つ良いことがある。この

昆虫は、普段の生態があまり解明されていないが、一点だけ判明し

ている点として、「味の良い作物」しか食べないということだ。

 宝飾亀虫が農作物を食していた畑の農作物の評価はあがり、市場

での売買は通常より高値で取引されることになる。

 別名では「美食亀虫」とも呼ばれている。但し、狩る際の臭いが

作物に移り、その年の作物は売り物にならなくなるため農家にとっ

て、害虫に変わりはない。


「過去に一度だが、駆除の依頼があった農家から、お礼として畑の

作物を頂き食したことがある。普段食している何気ない食べ物だが、

たしかに味が濃厚で旨かった。ただ、少し臭ったが。

 翌年からその農家の作物は、領主が全てお買い上げということに

なってしまったよ」(古参の亀虫狩人談)


 亀虫狩りには必ず、「臭気対策用の防護面」と全身を覆うような「革

製の服と長靴」を着用する。こうしなければ、とても狩りには参加

できない。又、網と蓋付の壺も必要となる。


 農家からの依頼で受けた狩りの前に行うこととして、周辺に人が

住んでいる場合は必ず「避難」をしてもらう必要がある。

 これは、狩人組合が定めた決まり事の一つだ。もし、事前勧告を

行わずに狩りを行い、無関係の人間に被害が発生した場合の賠償金

額は、狩りを請け負った狩人が全額支払うことになる。


「宝飾亀虫に限らず、狩りの対象となる亀虫を狩人が狩る場合には、

事前に周囲から人を遠ざけることは必須事項となっています。

 狩りの対象となる亀虫の類は、攻撃を感じると臭気を発します。

これを避けることはできません。

 防護面や防護服を着用しないで臭気の発生している範囲に入れば

確実に気絶します。その後も、何日かは臭いが体に染み込み苦しい

思いをします」(組合担当者談)


 宝飾亀虫の捕獲は、慎重に行わなければならない。狩りは一般的

に3人1班で、良く晴れ日中に行われる。

 宝飾亀虫は夜行性で、昼の活動は鈍くなる。また、甲羅がもつ美

しい光沢から日差しを反射する為、発見が容易になるからだ。


 狩りはまず、全員で対象を見つけ出し発見後は周囲を囲み網で捕

獲する。

 この際に、甲羅を傷つけないように注意しなければならない。傷

が一つ付くだけでも、取引の際の価格が大幅に落ち込むからだ。

 捕獲後は、網から壺の中に移す。壺の中にも、万が一、亀虫が暴

れたときに傷が付かないように藁くずなどが敷き詰められている。


 壺に投入後、宝飾亀虫を二〜三度木の棒等で軽く突き、蓋を閉め、

そのまま一時間程度放置する。中を確認し、動かなければ捕獲完了

である。(ちなみに、壺投入段階で依頼は完了となり、狩人達は他の

場所へ移る)


「……できるば、亀虫狩りを行った後、すぐに素材の取引きで組合

内に立ち寄ってもらいたくない位、臭いです。素材そのものも臭い

のでどうしようもないのですが、狩人達にも臭いが移って強烈に臭

いんです。本人たちは、もう鼻が麻痺しているみたいで、あの程度

では気にならないようですが」(組合受付担当者談)


 また、間違っても持ち込んだ壺をその場で開けてはいけない。壺

にこもった臭気は濃厚で、通常よりも強烈に臭い。もし、臭気が放

たれれば、周辺は大騒動では済まないであろう。


「過去に一度だが、組合内で壺の蓋が外れたことがある。どうも蓋

の締め具合が緩かったようで、受付に渡そうと置いた拍子にポロッ

と外れたんだ。

 その直後、組合建物内にいた私や、壺を持ち込んだ亀虫狩人を含

めた全員の意識が飛んだようだ。……倒れた瞬間や、臭気を吸った

瞬間についての記憶が飛んでいるんだよ。

 多分、臭いが強烈過ぎて、心が記憶にも残したくなかったんでは

ないだろうかと私は考えている。どうやって助かったかって? 完

全装備で、急きょ呼び出された亀虫狩人と同じ装備を着込んだ、複

数の風の術士が、魔術で臭気を吹き飛ばした後に、治療所に運び込

まれたのさ。命は助かったが、町中から殺到した苦情の処理にも苦

労をしたもんだ」(狩人組合長談)


 宝飾亀虫は農家からの駆除依頼以外でも、見つけることはできる

が滅多に見つかるものではない。

 通常時、亀虫狩人は専ら周辺の草地に生息する「鉱石亀虫」の駆

除を担っている。

 この亀虫は、甲羅ごとに複数種存在する。「石」「鉄」「銅」が一般

的に発見されやすい。ごくたまに「銀」や「金」も存在するが、こ

れらは険しい山地に近い草原まで足を運ばなければ、見受けられる

ことはまずない。(大きさにもよるが金や銀は宝飾亀虫並に価値が高

い)


 狩りを行う場合の装備の防護服については同じ仕様だが、更に下

に革鎧を着込む。また、武具として長柄の槍、弓を一式用意する。

 鉱石亀虫の成虫は動物食性(肉食性)で、短い管のような口の中

に隠し持つ太く短い「麻痺針」で噛みつくと同時に麻痺させてから

捕食を行う。

 又、甲羅も固く下手な武器では損傷を与えることはできない。臭

気に関しては、宝飾亀虫より幾分かはましだが、近づけば鼻を塞が

ずには居られない程であり、これも鉱石亀虫の攻撃手段の一つと言

える。


「防護面が無くとも、風の術士がいれば冒険者や他の狩人でも勝負

は可能だ。しかし、結構な人間が甲羅の固さに手を焼いているうち

に、麻痺針に刺されることが多いようだ」(亀虫狩人談)


「旅の最中に、異様な臭気がしてきたんで、「あっ、亀虫がいるな」

と分かったんだ。

 たまたま、同行者に、風の術を得意とする術士がいたんで、もの

は試しと見に行ったら色合いからして「銅」。

 こいつも、そこそこ好い値で売れると知ってたんで、狩ろうと挑

戦したんだ。


 ……結果、見事に失敗。


 甲羅は固いから、こっちの攻撃は通らない。しまいには、前に出

過ぎた俺自身が、噛まれた瞬間に激痛と痺れで動けなくなる。這う

這うの体で、同行者に担がれて逃げ延びたよ。

 そのあと、何日かは動けないし、臭いから宿屋の宿泊断られて馬

小屋で寝泊まりが続くで、踏んだり蹴ったりだったよ」

(旅の冒険者談)


 亀虫狩人が鉱石亀虫を狩る際には、まず長柄の武器を腹の下に潜

らせ、ひっくり返すことから始める。甲羅は固いが、腹にはそれな

りに攻撃が通る。

 ひっくり返した後は、槍で起き上がらないように、けん制しつつ、

弓で遠距離から攻撃するのが基本だ。この際に、中脚と後脚の間を

攻撃してはいけない。この付近には、臭気袋があるためだ。

 実は亀虫の臭気袋もまた、狩人達の貴重な収入源となる。


「剥ぎ取りの際も臭気袋は傷つけないように注意する。まず、甲羅

を剥ぎ取り、次は臭気袋を剥ぐ。余裕があれば安い素材として取引

きのある手足も剥ぎ取るが、野外での狩り獲った場合は、甲羅と臭

気袋で手が塞がる。甲羅が結構重いんだ」(亀虫狩人談)


「臭気袋を何に使うか。実はよく判らないんです。ただ、取れた際

は薬師組合に引き取ってもらうんです。あんな、臭い物をいったい

何につかんでしょう?」(女性組合員談)


 情報元を明かさない、聞いたことを漏らさないことを条件に、古

参の亀虫狩人が教えてくれた。


「実はな、あの臭気袋が香水の原料になるらしいんじゃよ。むかー

し、酒場で相席になった薬師が「もう臭い作業は沢山だ。」ってこぼ

しながら、語りおった。なんでも、「ワクサの香水」とか呼ばれてい

る香水の原料らしいよ。儂、香水使わんから良く知らんけど」


「ワクサの香水ですか? 知ってますよ。超高級の香水です。いい

香りなんです。一度、公爵が組合へ視察に見えたときに、いい香り

がしたんです。

 後で、その香りが、ワクサの香水だって、組合長がしかめっ面で

教えてくれました。これみよがしに超高級品を付けていたから、き

っと気に障ったんでしょうね。」(女性組合員談)








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