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狩人目録  作者: マ・ロニ
昆虫編
3/21

蟻狩人

蟻狩人


 悪食大蟻(アリ目アリ科)

 体長   四十センチ〜六十センチ

 営巣場所 草地・森林・大規模な畑

 食性   幼虫・成虫共に雑食性


 蟻狩人にもたらされる狩りの依頼は「巣の駆除」及び「蟻蜜の確

保」である。主な対象は「悪食大蟻」となる。


 暖かい時期になると、地表に穴をあけ、巣穴を作る蟻。普通見か

けるのは、体長が一センチ程の昆虫が一般的だ。小型である彼らは、

普段の生活において脅威になる事はまずない。

 まれに毒を持つものや、凶暴なものに襲われ痛い目を見ることも

あるであろう。しかし、悪食大蟻との遭遇は、例え一匹でもかなり

の危険を伴うことになる。


「狩人組合で駆除対象としている、大型昆虫のなかにおいても、悪

食大蟻の大きさはそれほど大きい類ではありません。しかし、力の

強さを考えると、大型甲虫類のなかでも上位に位置します。よって

彼らの狩りは、非常に危険性を伴うものとなります。」(組合者談)


 彼らの厄介な点は、強い力のほかに、「群れを呼ぶ」習性があるこ

とだ。一匹に遭遇し、戦闘している間に多数の蟻を呼ばれ、群れと

戦い全滅の憂き目に合う冒険者たちは少なくはない。

 彼らと対峙する場合は、逃走経路の確保を確実にする必要がある。

それを怠るものは残念ながら、彼らの餌となることになる。


 悪食大蟻も、他のアリ科と同じく、親と子が共に生活を続ける社

会性昆虫である。親と子と表現はするが、実際は女王蟻と雄蟻、兵

隊蟻に分類されるため、どちらかと言えば「女王と側室、王家に仕

える兵隊」とも言える。


 彼らは「悪食」の名が冠するように、とにかく何でも食べる。基

本的に植物やその蜜、小型の生き物を捕らえ巣穴に運び餌とする。

しかし、近くに餌がない場合は、固い樹木をも切り倒し餌の代わり

にする。そのような段階で人が近付けば、良質の餌として一斉に襲

い掛かってくる。

 洞穴火間虫は固い物を残すため襲われた後には骨が残る。悪食大

蟻の場合、骨も残ることはない。悪食大蟻に襲われ仲間を失った冒

険者はこう語った


「奴らの群れに襲われると骨も残らないなんて言われるが、実際の

ところは、全部、巣穴に持ち帰っちまうからなんだ。逃げ遅れた仲

間が、群れに飲みこまれた瞬間は悲惨なものだったよ。

 顎が噛みついたと思った時には一気にバラバラになっていた。奴

らの力で引き裂かれたんだ。こっちは、もう逃げるのに夢中だ。あ

あやって、死体を巣穴に全部持ち替えるんだ。骨も残るわけがない

よ」(冒険者談)


 しかし、彼らの巣を調査した狩人組合の関係者によれば、いずれ

にしても巣穴に餌となった死体の骨が、残っている様子はないとの

ことだ。


 彼らの階級毎の役割も、他のアリ科と同じく、産卵をする「女王

蟻」、種付けのためだけに存在する「雄蟻」、女王や幼虫の世話、巣

作り、餌の確保、巣の防衛を担う「兵隊蟻」に分かれる。

 兵隊蟻に関しては、現在の研究では、さらに役割を分担され、女

王や幼虫の世話をする「側近蟻」、巣の拡張を担う「工作蟻」、巣の

防衛を任させられる「防衛蟻」、餌の確保や外敵の駆除を行う「戦士

蟻」がいる。

 彼らは、自己の分担する作業に専念し、決して他の蟻の作業を手伝

うことはしない。一つの巣穴には、通常で五百匹、最盛期で千五百

匹程度が生息している。


「基本的に一番数が多いのは「戦士蟻」だ。まあ、最前線で活動す

る奴らは犠牲も多くなるからだろうからね。巣の7割近くはこいつ

らだといえる。残りの連中の数の割合は、まあ、おんなじくらいだ

ろうね」(蟻狩人談)


 悪食大蟻の巣穴は、直径で一m程度、全長は百mを超えてくるこ

とが一般的だ。岩盤の地層に当たるまでは地下に深く巣を作る習性

がある。

 巣を探索中の狩人が滑落して死亡する報告例もある。出入り口は、

基本的に一つしか設けられていない。出入り口付近には、掘られた

際に排出した土砂が肌人の胸の辺りの高さで堆積されている。

 地表から流れる雨水の侵入を防止するためだと思われる。雨天の

前には、周辺の中低木を伐採し巣穴の上に覆うほど雨天の対策は整

えられている。

 

「悪食大蟻の巣穴に樹木屋根が掛かり始めれば雨が近い」


 このことは天候を予測するうえで信憑性が高いとして、冒険者や

狩人の中でも有名だ。

 

 又、巣の要所には工作蟻の糞(土を食べて排出した物)で補強を

行い、崩落を未然に防ぐ処置も施されている。女王蟻の部屋におい

ては、石を敷き詰め快適な空間にされている。

 ちなみに巣の各所に存在する部屋(貯蔵庫・卵部屋・幼虫部屋・

ゴミ捨て場等)は一般的な家屋にある部屋広さ程度はあり、天井の

高さも二m程度で、人が立っても支障がない程になっている。

 最下層に位置する女王の間においては、通常の部屋の三倍程度の

大きさで造られているごく一部の魔法研究者は、蟻を駆除した後の

巣を隠れ家として利用する者もいるようだ。


「なれれば奴らの巣は結構快適だろうよ。不思議なことだが、一定

の深さの部屋に行けば、暑い時期でも、寒い時期でも快適に過ごせ

る。ただ、そこにたどり着くまでに、這って行かなきゃならんがね。

 まあ、巣穴を利用する奴らはその辺をどうするか、対策を考えて

はいるみたいだが。対策のやり方かい? 知らんよ。知っている奴

に、巣穴を利用する奴はいないからなあ。聞いても中々教えてはも

らえんようだし」(蟻狩人談)


「生半可に蟻の巣の通路を、住みやすいようにと拡張し、崩落する

事故の例も、各組合に報告が挙がってきます。その辺は自己責任と

いうことで、組合として規則を設ける動きはありません」

(組合担当者談)


 悪食大蟻の駆除方法は、「攻撃で排除する」ことになる。幾つかの

情報の通り、力が強く、群れで行動する彼らを、攻撃で駆除するの

は、問題があるように思われる。


「攻撃で排除するからといって、何の準備もしないわけではない。

蟻狩人も他の狩人と同じく、習性研究を常に行い、狩りの前には入

念な準備を必ず行う。悪食大蟻の群れに襲われれば危険だが、単体

の攻撃力はさほどでもない。要は、大きな群れを作らせないように

することが一つの要点といえるのだ」(蟻狩人 班長の談)


 蟻狩人の班は、五〜六人程度が普通だ。これ以上多いと、狩りの

分け前が減る可能性があるためだ。

 しかし、大規模な巣の駆除(繁殖数が最盛期の巣)を行う場合は、

合同班が組まれることもある。それ以外には、三人程度の日雇いの

荷物持ちを頼むことが多い。

 又、嗅覚の鋭い獣人種族がいない場合には猟犬を必ず連れて行く。

 

 蟻狩りにおいては、まず「少数蟻の撃退」を行う。この作業は、

日中活動している小さい群れを襲撃し、素早く撃退することが肝要

だ。

 撃退が遅れると、周囲から連鎖的に蟻の群れが応援に来てしまう

からだ。撃退後の蟻の一部を持ち帰ることも忘れてはならない。


 夜、蟻の活動は最小限となる。その間に、巣の位置を確認する作

業を行う。最初に捕獲した蟻の一部を猟犬に嗅がせ、蟻が振りまい

た匂いを元に巣まで導いてもらう。

 この時、巣まで近づきすぎてはいけない。夜間といえども、完全

に寝静まっているわけではなく、攻撃を受ければ、防衛蟻や戦士蟻

が一斉に出てくるからだ。


 巣の位置の確認後は、日が昇るまで身を隠し、戦士蟻達が出払う

時を見計らい「消臭」と呼ばれる作業を行う。


「蟻たちは「匂い」を元に行動をしているということが、蟻狩人の

常識だ。眼で見ることもできるようだが、それほど優れてはいない

ようだ。そこで、戦士蟻が出払い戻るまでの間に、貝殻を焼いてつ

ぶした粉を巣穴一帯にまき散らすんだ。そうすると、やつら匂いが

分からなくなって巣に戻れなくなるんだ」(蟻狩人談)


「蟻狩人の新米の仕事は、まあ、他と同じく「荷物持ち」からだ。

消臭粉は大量に使う。なるべく広範囲に拡散させたほうが、群れの

大きさを小さくできるからな。新入りはまず、消臭粉の運搬から。

まあ、新米期間が終わると荷物持ちの人間を雇うことになるがな」

(蟻狩人班長談)


 消臭作業後、巣の危機を察知した防衛蟻が巣から続々と出てきた

段階で、巣の駆除は本格化する。防衛蟻を駆除する役と、消臭範囲

から逃れたわずかな匂いを元に、巣に戻り始める戦士蟻達を駆除す

る役の2手に分かれる。この際、防衛蟻を駆除する側は盾役と遠距

離攻撃を行う者で構成されるのが常だ。


「防衛蟻の厄介なところは、蟻酸をぶっ放すところだ。鉄盾溶かす

ほどではないが革製防具なんかは溶けちまう。かといって、全身金

属で固めるわけにもいかんしな。鉄盾で弓使いや、術使いを守りつ

つ駆除を進めるんだ」(蟻狩人談)


「蟻狩人に最も必要な物は、強い攻撃力よりも「忍耐力」だ。数の

多い蟻共を駆除するには、長い時間が必要だ。倒しても、倒しても

湧いてくる蟻共に心折られず坦々と狩り続けることをできる者だけ

が、いっぱしの狩人に成長できるのだ」(蟻狩人班長談)


 戦士蟻と防衛蟻の駆除が片付くと同時に、巣への侵入作業が始ま

る。この際、先頭に立つのは、巣専用の盾に持ち替えた盾役だ。盾

役に落下防止と先導用となる縄を括り付け、巣への侵入が開始され

る。

 盾は円形で直径が六十センチ程の大きさで、万が一巣に残ってい

た防衛蟻からの攻撃を防ぐ役目をする。(部屋迄蟻を押し込み、部

屋についたら駆除を行う)

 

 進行は、最下層に位置する、女王蟻の間まで慎重かつ速やかに、

行われなければならない。実は、防衛蟻が出払った段階で、工作蟻

と側近蟻達によって女王蟻の逃避が行われているからだ。


 「女王は他の蟻に比べて、3倍位の大きさだ。図体がでかい分、

逃げ足も遅い。しかし、逃避の際だけ工作蟻共は、複数の群れに分

かれて迷宮みたいに逃亡通路を造りだすのだ。

 もたもたしていると、本当の迷宮みたいになり、女王の駆除に失

敗することになる。女王の駆除ができないと、別の場所に、別の巣

を作り上げられるため、狩りの失敗を意味して依頼料はでない」

(蟻狩人談)


 逃亡の際、工作蟻達は腹に詰めるだけ土を詰め込む。大抵が消化

が間に合わずに腹が避けて死んでしまう。迷路となった先には、転々

と工作蟻達の死骸が転がる。側近蟻の多くは、逃亡時の女王の食糧

と消える。悪食大蟻達はとにかく、女王を生かすことに全力を挙げ

るのだ。


 「女王を補足しちまえば、駆除は終わりだ。側近蟻や工作蟻、女

王蟻は動作が鈍いから、極端に近づきさえしなければ攻撃が当たる

こともない。先導役が、後続から手渡された槍で突き、狩り取れば、

駆除の依頼は完了だ」(蟻狩人談)


 女王の駆除が完了後、駆除の依頼に含まれる、蟻蜜の確保と搬出

が行われる。

 蟻蜜は女王の間の一角に、薄皮で包まれ「蟻蜜玉」という形状で

保管がされている。そのまま運ぶと、巣の通路の途中で破れるため、

壺等に移し替え運べるだけ運び出す。

 持っていけない分は、その場で蟻狩人達の、食料として消費され

る。幼虫や卵については自由処分であり、大体が蟻狩人達の食糧と

して持ち帰られる。


「蟻蜜も又、市場では高価な取引がされます。巣から捕れる量は結

構ありますが、それでも足りるものではありません。蜂蜜は、滋養

強壮に良いとされ、病やケガで衰えた体力を回復するのに好まれま

すが、精力剤として活用されるのが一般的です。蟻蜜は女王蟻と、

種付けだけで一生を終える雄蟻に与えられるようで、人にとても良

く効くそうです。試したことはないんですけどね」

(組合職員談)


 最近においては、新しい狩りを試みる蟻狩人がいるようだ。蟻同

士においても領域が存在し、他の蟻の群れの領域に入った蟻は攻撃

を受ける。このような習性を利用して、他の領域から蟻の群れを連

れ出し、駆除する蟻の群れにぶつけるという方法ということだ。


「狩りの仕方も、時が経てば変わるもんさ。新しい狩りが成功すれ

ば、一回の狩りで二つの巣の駆除が成功する。誘導さえ成功すれば、

あとは蟻同士が戦い、数を消耗してくれるそうじゃ。

 しかし、反面、導きに失敗すると群れに飲まれて、死んじまうし、

万が一誘導している最中に他の人間がおれば、そいつらも巻き込ま

れる。結構、危険性が高い狩りのようじゃ。まあ、その辺りは、こ

れからの研究に期待しようて」(老蟻狩人談)








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