3-5 黄金瘡王
黄金瘡王
ケシ科クサノオウ属
最大高 一メートル前後
生育環境 野原・森林地帯
花が咲く時期 暖かい時期
もし、森や野原の一画で獣等の駆除をしている最中に刈り払った
草の一部から、鮮やかな黄金色をした強烈な匂いを発する液体が出
たとしたら注意が必要だ。無事に獣の駆除が完了したら速やかに身
体を洗うことをお勧めする。気が付かないうちに肌に付着をしてい
れば皮膚と肉が爛れる恐れがあるためだ。
獲った獣の肉を口にすることもおすすめは出来ない。同じように
液体が付着していた場合、肉は毒となっていることになり、貴方の
内臓を蝕み死へと誘うことであろう。
そして、そのことを街に住む薬草士に話し治療を受けることも忘
れてはいけない。薬草士はあなたへ無償で治療薬を渡すと共に、ど
の辺りで見たかを必ず聞いてくるであろう。貴方は、治療薬の見返
りにその情報を快く提供すべきだ。例えうろ覚えであろうともだ。
そうすれば、翌日には慌ただしく動き始める植物狩人達が見受け
られることは間違いがない。――黄金瘡王、強烈な毒草にして、高
価な治療薬の元となる薬草の一種である。
この植物が見つけずらい理由としては、その見た目にある。世に
言う雑草の類と変わらない姿で生息をし、植物の中に紛れ込む。葉
の形状や高さも一般的な植物とあまり変わり映えがない。見極める
手段としては、葉や茎を切断した際に流れる黄金色の液が唯一の目
印となる。
しかし、この液が厄介者で万が一素の肌にでも触れれば皮膚を爛
れさせ、終いには肉にまで浸食してしまう。肌の弱い人種において
は草に触れた時点で肌が爛れている場合もある。
「以前、駆除系の依頼を受けた時に刈り払った草の一部に紛れてい
たようだ。強烈な匂いがしたとは判ったが、当時は草の事自体を知
らなかった。相手の臭気が強く感じられた程度に思ったんだな。
無事に駆除が完了して顔についた血を拭った。討伐証明部位をも
ぎ取って意気揚々と帰る最中に異変は起こった。顔が熱い、痛い。
結局、我慢しきれずにその場で蹲っちまった。慌てた仲間が駈け寄
り俺の顔を見て、悲鳴を上げた。俺は見ることは出来ないが酷い爛
れようだったみたいだ。直ぐに街に連れて帰られて薬草士の治療を
受けた。一命は取りとめたが、見ての通り傷は残ったよ」
(顔の半分を覆面で隠した中堅冒険者談)
この冒険者は運が悪いともいえる。そもそも、黄金瘡王は生息自
体が稀である。似たような白濁した黄色い液を出す草もある。これ
も似たような症状を出すが、命を取るほどにまで皮膚や肉を爛れさ
せることはない。(但し、誤って食すると死を招く恐れはある)
黄金瘡王見つけるのは運任せに近い。一所に生息するということ
が無いためだ。深い森の中にあると思えば、野原に生えていること
もある。そして、運よく見つけたとしても翌日にはその場からなく
なっているということだ。
「報告を受けてから動くのは遅いと言えるのじゃよ。運が良ければ、
まだそこに生えていることがあるが大概はそこにはもう生えていな
い。儂ら植物狩人が探究を続ける植物の一つじゃの」
(老植物狩人談)
見受けられなくなる原因は諸説諸々にある。何某かの生き物が好
んで食べる説、切りつけられた段階で枯れ始めてしまう説、実は歩
いていなくなる説。だが、どれもが説得力には掛けている。
この草を何もしないまま食すれば内臓が爛れ腐り落ち、生き物は
生き残ることは出来ない。美しい黄金色の液体はそれ程に恐ろしい
毒だと言える。他の食べ物にわずかに付着しているだけでも効果は
てきめんだという。時折、この草の毒液を利用して暗殺を試みる者
もいるらしいが大概は失敗に終わる。
「まあ、馬鹿としか言いようがないさね。あれだけ強烈な匂いを発
している毒液を飯に混ぜれば、よっぽど鼻の利かない人間でも無い
限り判る者さ」(薬草女談)
歩いていなくなるというのも眉唾だ。実際に視たという者もいる
らしいが、多くの植物狩人が否定している。
「報告を受けてから見つかることも稀にあるんじゃよ。若干の位置
の食い違いはあるが、人の記憶なんてそこまで信用なんてできんし
の。儂らが見つけて根ごと、引っこ抜く時に逃げだしたなんてこと
聞いたこともないからの」(老植物狩人談)
現段階で一番信憑性が高い説は『切られてから枯れ始める説』だ
と言われている。しかし、黄金瘡王についても植物狩人達が取り扱
う他の植物と同じように自生はしていても、栽培が成功したことは
ない。貴重な治療薬の基になる植物を切って枯らせるわけにはいか
ないため真相は判らずじまいと言える。
黄金瘡王の黄金色に輝く毒液は、薬草士が抽出した後に錬金術師
の手に渡り治療薬の素材の一つとして生まれ変わる。この素材が用
いられた治療薬は大抵の外傷を瞬く間に直すほどに効果が高い。
「腕の立つ薬草士は大抵錬金術の心得も併せ持っているから、自分
の手でこさえることも出来るのさ。ヘボがやると、毒性が抜けてい
ないから傷口が広がることもあるから注意が必要だよ」(薬草女談)
「黄金の名が付く通り、この草は良い価格で引き取って貰えるのう。
だが、欲をかいてこいつだけを探すようなことをしてはならん。見
つければ運がいい程度の代物じゃ。簡単に見つけられる物ではない
んじゃよ。もし、ひたすらにこの草だけを求めている者がいたとす
れば『黄金と言う名の毒』に心が侵され始めている証拠じゃ」
(老植物狩人談)
何事も程々が良いのじゃと語った後に、狩人組合の担当から「黄
金瘡王発見の報告有り」の知らせを受け、目の色を変え慌ただしく
用意を整え、年甲斐もなく駆け出した老狩人の背中を忘れることは
出来ない。




