3-3 痺豚草(墓場草)
痺豚草(しびれぶたくさ又は墓場草)
キク科ブタクサ属
最大高 三メートル程度
生育環境 温暖な草原地帯
花が咲く時期 比較的暖かい時期
草原の一画にやたらと草が茂っている場所には注意が必要だ。も
しかするとそこは痺豚草の群生地である可能性が高い。周囲をよく
観察し、草原に住む獣がそこここで寝転んでいるようであれば可能
性は高いと言える。
痺豚草の花粉は毒を持ち、短時間の間でも吸い込み続けると、鼻
水やくしゃみが止まらなくなり、次第に頭痛が始まり、最後は身体
が痺れ動かなくなる。又、一度発症した者は後遺症が残り、近くに
痺豚草があるだけで、通常の人よりも短い時間で症状を発症しやす
くなる。
「名前を聞くだけで、クシャミが出そうになります。狩人組合では
見つけ次第、焼却して駆除するように呼び掛けていますが、皆、嫌
がり近付く人がいません。肉付衝羽根よりも駆除の担い手は少ない
厄介な植物です」(狩人組合担当者談)
「あの草に近づくのだけは勘弁だ。若い時分に近くで狩りをしてい
た時に花粉を吸ってから直ぐに、鼻水が止まらない、クシャミは連
発、目は痒くてしょぼしょぼする。狩りにならなくて、組合に戻っ
てその事を報告したら、直ぐに駆除班が完全防護の状態で、風の術
使いを引き連れていったよ」(中堅狩人談)
痺豚草は垂直に伸び、暖かな時期になると穂先に無数の黄色い小
さな花を咲かせる。花粉を求め、蜂や蝶と言った小型の虫が集まり
痺れて落ちる。その虫を狙って腹を空かした小動物が近寄り痺れて
動けなくなる。その小動物を狙い獣が近寄り、倒れて死ぬ。
花からは微小の花粉が常にまき散らされ、近くに来た獣が花粉を
吸いこむと大抵は痺れて動けなくなりそのまま死んでしまう。痺豚
草は、死んだ生き物が腐敗し分解されることによって生じる栄養を
糧に繁殖を続ける。
「痺豚草は繁殖が始まると爆発的に増え始めるから厄介じゃな。ま
ごまごすると辺り一帯の獣が死ぬ。その状態が何年か続けば枯れ始
めるが、種はあちらこちらに残るから獣が戻れば又、同じ事の繰り
返しじゃ。この草だけは焼いて駆除するに限る」(老植物狩人談)
別名で墓場草と呼ばれるように、痺豚草の回りには常に無数の動
物の死体や骨が存在する。垂直にそびえ立つ姿は、まさに墓のよう
に見えてくる。
駆除の仕方は至って単純で、防護面を被り、風の術士によって花
粉をなるべく散らしてから火を掛け燃やすだけだ。燃やした際に広
範囲に延焼しないようにすることに注意が必要だ。
この駆除も肉付衝羽根と同じように単独の狩人で行われることは
ない。多くの人員が、迅速に行動し駆除を行う手筈となっている。
しかし、実際の所動くのは年配の植物狩人達だけとなっているのが
実情だ。
「現在、狩人組合としては、痺豚草の駆除作業を冒険者組合へと依
頼するか、冒険者組合に請け負わせるかを検討中です。駆除の方法
自体が単純で術士さえいれば誰でも可能だからです。専門知識を持
つ熟練の植物狩人がでるまでもない作業なのです」
(狩人組合担当者談)
「まあ、情けない話じゃが、この草からは何も取れん。現状では儂
らでさえ有効活用をする方法が見当たらん。完全に、ただの害草じ
ゃ。金銭だけで動く狩りをするのはつまらんからの」
(老植物狩人談)
駆除をしなければならないのに、実際には駆除を誰もしたがらな
い。繁殖力は強いが、有効的に使える素材もなく、食用にもならな
い。
しかし、放置をするわけにはいかないので、誰かが駆除を請け負
わなければならならない。結局貧乏くじを引くのは、辛く危険な仕
事を請け負う稼業に勤める若き駆け出しの冒険者達となりそうだ。




