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狩人目録  作者: マ・ロニ
植物編
18/21

3-2 肉付衝羽根

 肉付衝羽根ニクヅキツクバネ


 ビャクダン科ツクバネ属

 最大高  三メートルから四メートル前後

 生育環境 森林地帯

 花が咲く時期 暖かい時期

 

 四枚の葉のような萼片は矢羽のように見え、身を含めた全体を見

れば鏃を付けた短い矢のような形になる。油断すると、鏃部分の種

を含んだ実が肉に刺さる。直ぐに抜いても実が肉に残ったり、種が

少しでも食いこんでいれば後に傷口から発芽を始める。

 

 肉付衝羽根は生きた人や動物に寄生して育つ寄生植物の一種だ。

 

 花が散り果実となった頃、この植物が生息している付近に立ち入

るのは危険だ。危険な矢となった萼片付の果実が上から降り注いで

くるからだ。


「森の中を薄着で入る奴はいない。例え、肌の厚い獣人種でもだ。

特に肉付衝羽根は危険な植物の一種だ。厚手の布製防護服でも突き

破られることがある」

(中堅冒険者談)


「おう、若い時の油断は恐ろしいもんだ。金が無いを理由でまとも

な装備を付けずに森に立ち入った。獣人の皮膚は肌人みたいに柔じ

ゃあないからな。だが、運悪くツクバネの果実が突き刺さった。直

ぐに抜いた。果実も抜けたから安心したが、幾日か後に傷口から芽

がでた。種が残っていたんだな。知り合いの婆さまに見て貰ったが

散々怒られたあと、短剣でごっそり傷口付近全体を抉り取った」

(獣人種の狩人談)


 この獣人種のように傷口から芽吹いたことに気付けばまだ軽傷で

済むが、背中などの目の届きにくいところに傷を受け、芽吹いたこ

とを気付かずにいると傷口付近に根を張られ、取り返しのつかない

状態になる。


「傷口付近全体に根を張られた段階で、手の施しようはない。被害

者は意識はあってもベッドから起き上がることは出来ない。慢性的

な疲労や倦怠感に苛まれる。植物に身体の栄養を奪われるからだろ

う。食事をしても治る見込みはない。

 それこそが肉付衝羽根の狙いだからだ。寄生者が必死に食事をし

た栄養を奪い、ある程度の大きさになるまで育ってから大地に根を

付ける。ただ、余りに対象が小さいと育ちきる前に栄養が尽きて枯

れてしまうようだ。

 被害者はどうするのか? 放置して死ぬのを待つだけだ」

(狩人組合長談)


 この植物は見かけたら伐採の措置が取られる。それだけ危険な植

物なのだと言えよう。だが、大抵の者は見かけても伐採をせずに組

合に報告するにとどまり、組合が伐採の依頼を出す。

 但し、依頼を出されても引き受けては余りいない。得られる素材

が少ないせいだ。依頼を受けるのは、熟練の植物狩人達位だ。


「伐採するのも手間だろう? 素材も得られないし。それに、果実

が落ちてきたら危ないじゃないか。矢の代わりにならないのかっ

て? 無理無理、あんなに短い矢なんてつがえる事ができないよ」

(若手冒険者談)


「まあ、確かに手間が掛かる伐採だわい。そこそこ樹高もある。一

番の手間はなるべく伐採前に果実をもぎ取る必要があることじゃろ

う。そのまま伐採すると、倒れた拍子にあちらこちらに果実の矢が

飛び散って危ないからのう」(老植物狩人談)


 伐採前に枝に昇り果実をなるべくもぎ取っておく。果実は一か所

に集められる。伐採の時は皮鎧を全身に着込んだ伐採役が斧をふる

い、木の大楯を持つ守り役に守られた者達が縄を引き、樹がいきな

り倒れないように調整をする。肉付衝羽根は数少ない複数人で行う

植物系の刈りの対象になる。

 

 そして、得られた素材は担当をした植物狩人達で山分けされる。

 

 「素材が得られない」と有名な肉付衝羽根だが、実は成人男子の

親指程度の大きさを持つ鏃状の果実は食べることが可能だ。余り、

知られていない事実である。


「大体、これの被害を受けた連中は熟して固くなった果実を見てい

るから「食う」なんて思いもしないのだろうの。まあ、自分の肉に

突き刺さった果実食おうと思う奴は少ないだろうけど。そもそも、

たいした大きさじゃあないから一つ二つじゃ食っても腹の足しにも

ならんがの。野草を好き好んで食べる連中も少ないことじゃし」

(老植物狩人談)


 そう語った老狩人は、調理され皿に盛られた肉付衝羽根の萼片を

一つ摘まんで、塩ゆでされた果実の部分を齧り、杯に注がれていた

酒を飲んだ。

 調理方法としてはそのまま鍋で炒るか、塩茹で。又はひと手間を

かけて塩漬けした物を炒るか茹でるようだ。塩漬けをしないと苦味

が強いらしく、多くの植物狩人は日持ちも兼ねて塩漬けしてから食

べるのが普通らしい。


「歳を取ると、強い苦味が酒のつまみになることもあるんじゃよ」


 老狩人はそう言うと酒を片手に笑って、再び衝羽根の果実を口に

していた。


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