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狩人目録  作者: マ・ロニ
無脊椎動物編
14/21

2-8大剣尾甲蟹狩人

 蟹狩人(2)


 大剣尾甲蟹(ダイケンビカブトカニ ケンビ目カブトガニ科)

 体長  平均八メートル程度

 営巣地 主に海岸沿岸の干潟

 食性  動物食性


 蟹狩人となる者達が目指す目標であり、最大の獲物の一つとして

必ず挙げられるのは『大剣尾甲蟹』である。この獲物を狩り獲るこ

とが出来れば蟹狩人として一人前になった証となる。もちろん、狩

るためには相当の実力が必要だ。


 大剣尾甲蟹は海の沿岸部に形成される砂と泥が混じり合った泥の

中に潜り生活をする。干潟のような場所であれば、比較的簡単に見

つけることは可能だ。

 そもそも、身体の大きい大剣尾甲蟹を見つけることは容易だ。日

中に甲羅干しをする様子を見かけることも多い。大きい音には敏感

で、音を聞きつけるとすぐさま泥の中に潜りこんでしまう。

 

 だが、ヒトが近付いた程度では逃げることはまずない。逆に、捕

獲可能な餌が来たとして襲ってくることが多い程だ。

 

 大剣尾甲蟹は、丸みを帯びた大きな胸頭部と、名前の由来となる

鋭い剣先を持つ長大な尾っぽを持つ。甲羅は頑丈で、鉄製の武具を

用いても傷をつけることができない場合もある。

 同じく剣尾も硬く、力も強いため時として鋼鉄製の盾をひしゃげ

させ、薄い板金鎧が剣尾の切っ先で貫かれることもある。


「大剣尾甲蟹の狩りは実力のある狩人にとっても大変危険を伴いま

す。足場の悪い干潟で近接的な攻撃で挑むしかありません。弓矢等

の攻撃は通りにくく、火の術で攻撃をすると泥の中に潜りこんで逃

げてしまいます」(狩人組合担当者談)


「厄介なのは泥に足を取られること。相手は無数の脚と、やたらと

長い尾っぽを駆使してこちらを攻撃してくる。泥に足を取られ、バ

ランスを崩し、倒れれば、直ぐに上から圧し掛かられて死ぬ。干潟

の中に入らず攻撃をしたいが、矢は刺さらない、術からは直ぐに逃

げる。近づかずに連続して傷を負わせる攻撃方法を見つけたいもの

さ」(蟹狩人談)


 干潟の泥は脚にまとわりつき、狩人達の動きを阻害する。大剣尾

甲蟹は多脚を用いて動き回り、体長の半分を占める長い尻尾を振り

回すため近付くのは容易ではない。


 大剣尾甲蟹を狩る者達はどのように狩りを行うのであろうか?

 

 狩りの方法は幾つかに判れる。蛸巻貝の狩りで用いられるような

釣り出し型、小舟を用いて近付く方法、足元に下駄を履くやり方、

この三つの方法が今の所、一般的であるようだ。


「釣り出し方式は陸に上げられれば比較的狩り楽になるが、釣り上

げる人数も多く必要だし、下手をすると剣尾の先を振り回してロー

プが切られることがある。

 小舟を用いれば楽に近づくことは出来るが、足元が不安定な所は

変わらない。まごまごすると舟ごと沈められる。舟の費用も高い。

 下駄を履くのは安上がりだが、慣れないとまともに動けないし、

干潟の場所によっては余計に足を取られかねない。

 どれも、一長一短と言ったところかな」(蟹狩人談)


「俺達は、舟の代わりに自分と同じ背丈位の適当な幅の板切れを用

意して、その上にうつ伏せに寝そべった状態で腕を櫂代わりにして

前に進む。足元には予め、板状の下駄を履いておく。

 こうすれば、獲物に対して素早く近づき、足元も沈まずに近接し

て狩りが行える。まあ、尻尾の攻撃を躱しきればの話だがな」

 (熟練蟹狩人談)

 

 下駄は二種類存在する。最も多く使われるのは板下駄だ。

 これを靴の底に括り付けて履く。干潟のどれに接する表面積が増

えるため沈みにくくなる。但し、板の底に泥が付き慣れない者が用

いると余計に動きを阻害することになる。

 暇な時期に新米狩人達が、熟練狩人の指導の元、泥地で下駄を履

き動く訓練の際に、足が動かずに、力を入れて動かした拍子に、足

が高々と上がりそのまま転び泥だらけになるのはよくある光景だ。

 最近ではあまり使われなく成りつつあるのは高下駄だ。履く方法

は板下駄と変わらないが、形状は細長くなっている。この高さを利

用して泥の底の地盤を歩いて狩りを行う訳だが、近年泥の厚みも増

して来て中途半端な長さの下駄では地盤に到達出来なくなりつつあ

る。そもそも、干潟の泥の深さは一定ではなく場所によっては深い

部分もあるため扱いには難儀をする道具であったようだ。


「それでも何故か、好き好んで高下駄を用いる老狩人がいます。

 本人に聞くと

 『足腰が鍛えられる』、『地形を理解していれば嵌ることはない』、

『慣れれば少ない歩数で近付ける』『上手くいけば泥に潜む獲物を探

し当てて、上から銛で突くことも可能』と言います。

 今は現役の時のように狩りをすることはありませんが、時々干潟

から獲物を持って組合に訪れます。まあ流石に、大剣尾甲蟹は獲っ

ては来ませんが」(狩人組合担当者談)

 

 大剣尾甲蟹は食用とできる肉の部分が大きさに見合わず大変少な

い。そもそも白身の肉は泥臭く水っぽいため、余り美味しい肉では

ない。

 だが、その分肉厚で頑丈な甲羅は武具、防具の他にも様々な道具

や建材の素材として高値で取引される。又、一体から一本しか取れ

ない大剣尾の部分はそのまま『大剣』として加工がされ、一流の武

具に代わる。


「近年は鋼鉄製の武具が流行りつつある。確かに、強度の高い鋼鉄

製の武具は強力な攻撃を与え、獲物に大きな傷を与えることが可能

だ。しかし、その分非常に重い。場所によっては、使い勝手が悪く

なる場合もある。大剣尾甲蟹の剣尾は軽く強固だ。一流の職人が手

を掛ければ鋼鉄製の武具にも負けない強さとなる」(狩人組合長談)


「一度、鬼人種の戦士が大剣尾を加工した剣を用いて、森の奥で亜

人と戦っている光景を目にしたことがる。よほど運が悪い奴なのか

ゴブリンの群れとオークの群れを相手にしていた。

 だけど、運が悪かったのは亜人共だったよ。鬼人が大剣を振り回

すと、剣の軌跡に沿って亜人が真っ二つに割れていく。樹の陰に隠

れていても樹ごと叩き切っていた。

 残ったのは、数多の亜人の遺体だけ。討伐部位を取って鬼人はそ

の場を何事もなかったかのように立ち去って行ったよ」

(旅の冒険者談)








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