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狩人目録  作者: マ・ロニ
無脊椎動物編
12/21

2-6ゲジ狩人

 蚰蜒ゲジ狩人


 病殺蚰蜒(ビョウサツゲジ ゲジ目ゲジ科)

 体長   百〜百五十センチ程度

 営巣場所 森林、草地、耕作地、民家周辺

 食性   動物食性(主に小型から中型の昆虫類を好む)


 ゲジ狩人が受ける依頼は、近年狩人組合内において要調査対象と

して慎重に扱われる。近い将来彼らは百足等の獲物に対象を変更す

る可能性が高くなりつつある。彼らに依頼される内容は主に「駆除」

である。


 病殺蚰蜒を含めたゲジの類は、生息地を選ばず比較的どこでも見

られる。多数の長い脚を持ち、素早い動きで狭い場所でも入り込む

ため、物陰や大きめの石の下に潜み、人が近付くと逃げ出す。

 見た目が悪いため民家の近くなどで見受けられると、時として駆

除の依頼が狩人組合に、舞い込むことになる。


 病殺蚰蜒は、大型で百センチを超える体長を持つものが一般的で

ある。小型から中型の動物を捕食対象とするが、こちらから手を出

さない限り人を襲うことはない。

 但し、毒性はないが齧られるとかなり痛い。体長より小さい子供

等が時々、被害を受ける。そのような時に、駆除の依頼があるため、

ゲジ狩人は存在していた。


 素早い動きに対処できなければ狩りにならないため、比較的身軽

な者や、健脚で足の速い者でなければゲジ狩人は務まらない。湿気

を好み、乾燥に弱いゲジは火の術を行使すれば簡単に駆除ができる。

 但し、素材の確保も視野に入れると、大抵は短剣等を用いた直接

攻撃で仕留めることになる。ゲジ自体の防御性は弱く、どのような

武器でも攻撃は通りやすい。ゲジ狩人は、二〜三人一組の班構成で

行われるのが基本である。


「一人が先回りして、病殺蚰蜒の逃走方向を塞ぐようにする。逃げ

道を塞いでいる隙に、後ろから胴体部を踏みつけて逃げ出さないよ

うにしてから武器で仕留める。できる限りこちらも身軽にしておか

ないと、ゲジに追い付けなくなるから、自分達の動きを阻害しない

短剣類を主な武器にすることになるんだ」(蚰蜒狩人談)


 病殺蚰蜒は、生物としての見た目はかなり悪いが、甲羅は褐色で

ツヤがあるため装飾品として加工される。加工がしやすいため、比

較的手頃な価格で市場に出回る。

 比較的どこででも獲れるため、素材の取引価格自体も、現状にお

いてはまだ高い物ではない。ちょっとした贈り物として扱われるこ

とが多い人気のある商品だ。


 なぜ、近年において狩人組合がゲジの駆除に対して慎重を期する

ようになったのか。それは、彼らの名前に由来する。


 「病殺」の名がいつ頃からつくようになったのかは、定かではな

い。民間伝承として、「病殺蚰蜒が住むところは疫病が流行りにくい」

という言い伝えが各所にある。近年までは、所詮は民間伝承、迷信

であると思われていた。


 「見た目が気持ち悪いので、ゲジ嫌いの領主や部落の長の方針で、

積極的に駆除の依頼が出される場合があります。駆除が完了して、

しばらくすると大抵その周辺では、疫病が流行ることが多いという

ことが確認されました」(狩人組合担当者談)


 この案件に対して、狩人組合が様々な狩人に生態調査の依頼を出

したところ、ゲジが火間虫や蚊等の昆虫類を特に好んで捕食するこ

とが確認され、病殺蚰蜒の少ない場所に関しては、それらの昆虫が

繁殖しやすいことも判明した。


「都市に住む人種達が見た目でどう思うかは知らないが、森に住む

人種にとってゲジの類は益虫と判断している。何故彼らを狩るのか

不思議に思っていた。

 まさか、気味が悪い程度の判断だとは思わなかった。確かに、気

を付けなければ子供が齧られることもあろう。しかし、それはこち

らが不用意に手を出さないようにすれば済む話だ」


 森に近い場所に住む人々の話によると、病殺蚰蜒は綺麗好きで自

身が汚れることを好まない。甲羅のツヤや光沢は、暇を見ては常に

身体の掃除を行っているため生まれてくるということだ。火間虫の

ような油によるギラギラした光沢とは別物ということだ。


「確かに狩りに行くと、病殺蚰蜒が火間虫を襲っているところを見

かけることがある。火間虫より素早い動きで襲い掛かり締めあげた

後に、甲羅の隙間を齧りあげている。こちらとしては、獲物を盗ら

れたから憎たらしい相手でもあるがね」(火間虫狩人談)


「大型の蚊なんかもよく襲っているね。助走をつけて跳躍して捕ま

えるから大したものだと思うよ。かといってこちらが近付くと、さ

っさと逃げるから俺らはあんまり相手にはしないんだ。速いから追

いかけるの面倒だしね」(冒険者談)


 疫病の発生を抑える役割を持つと思われる病殺蚰蜒の駆除依頼は、

現状などを聞き込み調査し、大量発生等の必要な理由が無い限りは

受理がされることがなくなりつつある。

 ゲジ狩人達は現在、素早さはゲジより劣るが、毒性が高い攻撃を

もつ大毒百足を主な獲物に変更する等、別の獲物を狩りの対象とす

る為に装備の更新を進めている。


「時代の状況により、専門狩人が廃れることは仕方がないことだ。

獲物に固執し、生活ができなくなるようでは本末転倒だ。だが、願

わくば狩りの技術が完全に途絶えるのではなく、今迄蓄積してきた

伝統ある技術を新たな獲物を仕留めるために活用し、新たな狩りの

方法を確立していく位の気概でいてもらいたいものだ」

(狩人組合長談)








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