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狩人目録  作者: マ・ロニ
昆虫編
1/21

蜂狩人

蜂狩人 


 大王スズメバチ(ハチ目大王スズメバチ科)

 体長   六十センチ〜八十センチ

 営巣場所 森林や草原

 食性   幼虫・成虫共に動物食性


 狩人組合から、蜂狩人へもたらされる依頼は「駆除」である。駆

除の対象は、家畜や人を襲う蜂である。

 

 社会性昆虫と言われるハチ類は、集団に襲われる危険性はあるが、

小型なため、毒針に刺されることがない限り致死に至る危険性は少

ない。油断をして良いわけではないが、術士による遠距離からの攻

撃で巣を破壊すれば駆除は容易にできてしまう。

 

 但し、火の魔術を使用した場合は、巣を丸ごと焼き払うため、蜜

や幼虫等の採取はできなくなる。

 その為、蜂狩人達は風の魔術で、蜂を払い落とす方法を取ること

が一般的である。

 駆除した物の取扱いは狩人達の自由となるため、獲物を減らすと

いう手段は、なるべく取らないということが行動の指針となる。


 社会性昆虫である小型のハチ類を駆除することは、新米蜂狩人達

の仕事である。依頼料も少なく、取れる素材も食用品のみだ。

 そもそも、人家の近くに巣ができない限り、この手の昆虫に対す

る駆除の依頼は発生しない。


 蜂狩人に、狩人組合から常時依頼される獲物は「大王スズメバチ」

である。スズメバチの名を付けられてはいるが、社会性昆虫ではな

く、単独生活を行うハチである。

 大王という名のとおり、体長は六十センチから八十センチ程と、巨

大だ。森林や草原に穴を掘り巣を作る。アナバチ科に似た生活形態だ

が、攻撃性や見た目はスズメバチそのものである。


 大王スズメバチは肉食であり、小型から中型の動物は、ほぼ捕食

対象とされる。彼らの狩りは、空中から素早く襲い掛かり、鋭い毒

針で麻酔をかけたあとに巣に持ち帰る。

 捕えられた者は、強力なあごで麻酔で痛みを感じることはないが

生きたまま噛み砕かれ肉団子にされたあとに、幼虫のエサとなるか、

麻酔が効いたままの生餌となり卵の苗床にされる。

 

 ベテランの蜂狩人はこう語る。


「巣の中を見せて、被害者の実態を見せるのは新米狩人の通過儀礼

の一つ。そこで、辞める奴は結局、狩人という職業に向いてない」

 

 大王スズメバチの捕食対象には『家畜』や『人』も含まれる為、

あえて人里の近くに巣を作る場合もある。大王スズメバチにとって、

家畜や人は、捕りやすい獲物と言える。


 狩りは雄が行う。雌は巣で卵や幼虫を育て、巣を守る役割を担う。

雄の狩りは、日中に行われ、夜間に狩りが行われることはない。

 しかし、巣に近づきすぎたり、誤って迷い込んでしまった場合は、

夜間であっても捕えられてしまう。

 

 又、日中であっても巣に近づけば雌に捕えられてしまうので注意

が必要だ。巣の入口は擬装され、一目では発見しにくい。気づかぬ

旅人が犠牲になることも少なくはない。


 蜂狩人にとって、大王スズメバチの狩りは常時の仕事だが、安全

な仕事とは言えない。しかし、この狩りに参加しなければ一人前と

は認めてもらえない。

 狩りは基本三人一班で行われる。斥候役・攻撃役・援護役に役割

分担されるのが一般的だ。


 斥候役は、前もって餌(野犬や大型の虫等)を用意し、逃げない

ように杭に縄で括り付け、大王スズメバチが捕えに来るのを待ち続

ける。

 大王スズメバチは獲物を捕らえる際には毒針で麻酔を行う。麻酔

が効くまでに二分程度の時間を要する。その間に、斥候役は「旗付

け」を行う。


 旗付けとは、麻酔を行う大王スズメバチに、気づかれないよう脚

の付け根に目印となる旗を括り付ける作業である。旗は、横取り防

止のため、班毎に紋様が組合で登録されている。


「初めて旗付け作業をして失敗する奴は、大概ぶるぶると手が震え

ているうちに、毒刺しの時間が終えちまうのさ。覚えとけよ、奴ら

は獲物に集中すると、こちらから攻撃しなけりゃ襲い掛かることは

まずねえんだ。

 それと、斥候役長くやるのは狩人じゃねえ、とか言い出す馬鹿が

いるんだが、本当は新米にやらせる仕事じゃあねえんだ。ここで失

敗していりゃあ、おまんま食えねえからな」(熟練蜂狩人談)


 彼らにとって狩りは職業であり、飯のタネだ。狩りを失敗する事

は生活に関わるということを失念してはいけない。失敗した者は「攻

撃をしなければ襲い掛からない」そう念じながら、恐怖心を払いの

け、次の旗付けを成功させるのだ。

 

 次に斥候役の重要な作業として「後追い」がある。目印の旗を付

けた大王スズメバチの後を追い、後に続く班員達の道を開き、巣の

位置までの誘導する作業だ。


 しかし、これも非常に困難な作業だ。追い付けない速度ではない

が、彼らは宙を飛ぶ。地上から追い続ける、我々の道は平たんで開

かれた場所とは限らない。

 時に森の中を突き抜ける必要もある。木々の枝を打ち払い、傷だ

らけになりながらも、見失わずに追い続けるには、強い忍耐力が必

要だ。

 ちなみに後追い中に、違う生物に襲撃される恐れがないように周

辺を警戒しつつ、安全な道を確保する必要もある。


 「一流筋の人達ほど斥候役にはベテランを配置します。蜂狩人の

斥候役はリーダー、まとめ役です。それだけ重要な役割ということ

です」(狩人組合職員談)

 

 巣を発見後は、いよいよ駆除作業が始まる。一つの巣には番が一

組、子を育てる成虫は二匹だけだ。しかし、侮ってはいけない。も

し、巣穴近くで彼らの顎に捕まり、巣穴に引きずり込まれれば生き

延びられる確立はゼロに等しい。


 そこで、まず煙を多く出す柴を集め、巣からやや離れた場所で焚

火を行い発生した煙を、風の魔術で巣穴まで誘導する。巣から燻り

だされた成虫に対して、援護役が弓か風魔術で羽を狙い飛行能力を

奪う。

 この時、できるだけ羽の根元を狙い落す事が必要だ。羽も素材と

しての価値が高い。

 飛行能力を奪った後は攻撃役が斧か剣で、頭と胴体の節部を狙い

叩き落とす。足元を気を付けなければ顎で足を食い千切られてしま

うことがある。


 「攻撃役は最後の止めだけって、愚痴を言われることもあるけど

奴らの生命力は伊達じゃあないからね。羽を落としたくらいじゃあ、

致命傷を与えたとは言えないんだ。脚でガサガサ動くだけだって結

構な速さなんだぜ」(蜂狩人談)


 ちなみに、最後の攻撃段階で致命傷を負い、撤退を余儀なくされ

ることも多々ある。無理に斥候役や、援護役だけで狩りを続けると

班が全滅の危機に陥るからだ。実際に引き際を誤った班が全滅する

事例も年間に何件か存在する。


 又、羽を失った大王スズメバチは、行動範囲が狭くなっただけで

捕食を辞めるわけではなく、先述の通り脚で活動できる範囲で捕食

活動を続けるため、駆除に失敗した対象は別の班が駆除を引き継ぐ

ことになる。


 駆除された大王スズメバチの成虫は、その場で「甲殻」「羽」「毒

針」「肉」に解体される。

 肉は、腐食が早いため大概、その場で狩人達に食される。その他

の部位は、武器や防具の素材として取引きされるため、通常は狩人

組合に引き取ってもらう。


 成虫を駆除したあとは、巣穴にこもった煙を風魔術で換気した後

に侵入する。蜂狩人たちは長年引き継がれた経験上、酸欠の危険性

を熟知しているようだ。


 「随分前の援護役は弓使いが専らだったらしいけど、今じゃ風使

いいなけりゃ、蜂狩人の班とは言えんからね。ジジイの儂のジジイ

の若いころは、巣煙出るのを待ちきれん狩人がたまに、巣の中でポ

ックリ逝ってたことがあったらしいね」(老蜂狩人談)


 巣の中には、幼虫と蛹、肉玉、そして麻酔を掛けられた生餌が存

在する。蛹と幼虫は狩人達の自由報酬として扱われる。一つの巣穴

から捕れる蛹と幼虫だけでも、班員達の家族数日分の食糧になる。

 大体、半分程は組合に引き取ってもらい金銭に替え、残りを自分

たちの食糧にとしている。


 幼虫も蛹、見た目は不気味だが、火を通すとまろやかで濃厚な味

だ。皮をこんがりと焼き、柔らかく溶けた中身に付けて食べるのは

美味と言えよう。ただ、蜂狩人の家族の子供達からは食いあきたと

よく言われているようだ。


 肉玉と生餌は、巣穴ごと焼き払われる。生餌(姿形を残された餌)

は、巣に運びこまれた段階で卵の苗床として雌から産卵を受けてい

るため、生存確率はゼロになる。卵は、一週間程度で孵化し、腹の

内側から食い破る。


 「ヒトの生餌も麻酔が効いているから身動きもしゃべりもしない

が、運が悪いと腹食い破る瞬間に立ち会うこともある。さすがにこ

いつは、ベテラン達もいい顔はしない。新米なら吐くか、卒倒する

かは確実さ。まあ、蜂狩人やっていれば嫌でも何回かは立ち会うが

ね」(蜂狩人談)


 ちなみに、もし、人種の生餌を助けずに焼き払う場面に遭遇した

時は良心の呵責に苛まれることはないのかと尋ねたが「そんなこと

気にしてたら狩人続けるのは無理だね」と返された。

 狩人組合の長はこう語る、


「狩人として生きたいのならば、準備を整え、不測の事態を排除す

る。危険ではない狩りなど存在しない。しかし、これは普通に生き

ていく上でも必要なことだ。完全に安全な場所等、存在しないのだ

から」


 さて、余談となるが、とある地方では大王スズメバチのことを「執

行スズメバチ」と呼ぶそうだ。

 これは、捕えられた悪辣な盗賊や犯罪者の類を大王スズメバチの

餌にして、死刑の一種とすることから名付けられたと言う。この際

も、蜂狩人が同行し、巣穴を見つけ駆除まではする。

 その後巣穴の中で、罪人が肉玉となったか生餌となったかを確認

する。

 運悪く生餌となった罪人は再度、巣穴から連れ出され解毒の治癒

魔術で麻酔を治し、腹を食い破られるまで地下の竪穴に放置するそ

うだ。

 刑の執行に同行した狩人からこのような話を教えてもらった。


「意地の悪い見張り役が、穴の中の罪人に『腹ん中どんな具合だあ』

と、毎日聞くんだとよ。罪人も始めは威勢よく『出せ出せ』ってギ

ャーギャー喚くんだが、三〜四日後には腹か抱えて、腹ん中で虫が

蠢いて、痛い助けてて懇願して、そのうちに蹲ったまま動かなくな

って、最後は腹から虫が湧いて死ぬんだと。そしたら、火つけて燃

やして、おしまいにするってさ」








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