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ウルフブレイド~異世界伝奇~  作者: おおかみちゃん
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雪の中で

はじめまして!おおかみちゃんです!


私も最近流行りのVRMMOものを書いてみようとおもったんですけど、やっぱり私は空想世界を題材にするとゲームではなくてその世界に生きる人がいる設定で話をかくのがすきみたいです。ごめんなさぃ。


さて前置きが長引きましたが「ウルフブレイド」是非お楽しみください♪

雪が降っていた。


普段は乾いた大地に覆われたこの国では珍しい。5年に一度、いや10年に一度の出来事だろうか…。そんな滅多に起きない現象に国民達は喜びではなく心に影がさす。

永遠に続くかと思うほどの長い夜は終わり、ようやく陽光が差しつつあるが、分厚い雪が窓からの光の半分以上を遮り、部屋の中なのに吐く息は白かった。

国のスラム街に位置する粗末な小屋。なにもない部屋の真ん中に唯一置かれたベッドの上で、10代半ばの少女が寝込んでいた。

「けほっ…こほっ」少女は乾いた咳が続いている。かなりの熱なのだろうか、金色の綺麗な髪は汗でべっとりと額に張り付いている。対象的に顔は青白くほおはげっそりとこけていた。


「けほっ…こふっ。」


「ほら…水…のめるか?」


少女が乾いた咳をするのをみて、ベッドのすぐそばで座り込んでいた少年はいたたまれない気持ちになり自分の持っていた水筒を少女に差しだす。少女よりも2、3歳ほど年上のようだがどこか顔つきがにている。二人はおそらく兄妹なのだろう。

少年は妹が身体を起こして水を飲むのを気がかりそうに見ていた。


「ありがとう…おにぃちゃん」


妹は軽く兄に対して微笑むと水筒を手を震わせながらわたす。

中身は殆ど減っておらず、一口ほども飲めていない。

兄の顔は曇る。妹が病にかかって一週間、病状が悪化しているのが明らかだった。

最近この国に蔓延している流行り病に妹はかかったのだ。

この病は子供や老人など、身体の弱い者が集中的に罹患している。

治療をして貰おうにも子供二人の生活、それにスラムに住むような子供にそんな金など到底あるはずもなかった。しかし少年は妹の為に金を作らねばならない。それも大金を短期間でだ。最早少年が妹を助ける方法は一つしか無い。少年はそれを今日実行に移そうと心の中で決意している。


「おにぃちゃん」


妹の声で我に帰る。少年は妹に心配させまいとぎこちない笑顔を妹に作って見せた。


「どうした?汗が気持ち悪いか?」


自分の考えを気どられないよう装いつつタオルで妹の頭を拭う。満足に食事も与えられない、こんな事しか妹に対してできない自分が情けなく、胸が張り裂けそうになる。もうやるしかないんだ。少年は覚悟を決め、立ち上がる。


「…悪いな、少しでてくる。今日実は大金が入るんだ。昼前には戻るからまってろよ。」


と妹にいいかけ、少年は外に出ようとしたが、妹に袖を掴まれた。


「おにぃちゃん…今日だけ…お願いだから一緒にいて?」


掠れた声で妹がつぶやく。しかし少年はその手を優しくにぎり返すと振り払った。


「大丈夫だ。昼頃にはかえってくるからよ。心配するな、マイカ。」


そういうと少年は妹…マイカの言葉を無視し、小屋からでていった。

少年は雪の中に雪を踏み込む。一歩外にでると寒さがひときわ身に染みた。しかし妹、マイカの為にも今家に戻ることはできない。少年は固めた決意を胸に秘め、迷いのない足取りで王宮方面へ歩いていく。しばらく歩くと王宮付近の、ある看板のたつ建物の前で少年は足を止めた。


「ここだ。」


少年が足を止めた建物の看板には


「国軍兵士報酬受渡所」


と書かれた看板がぶら下げられていた。ここにくるのは始めてだったが少年には当てがあったのだ。


扉の前で耳を当てて中の気配を伺い、何も聞こえないことを確認すると扉に手を掛ける。思いのほか大きな音を立てて開いた扉に心臓をばくばくさせながらも室内に滑りこむ。


正面にカウンターがあり、入り口に向かい合わせになるようにして受付らしき人物が一人座っていた。だれもいないとおもっていた少年は一瞬身体を強張らせる。扉が厚い為に音が遮断されていたのだ。



室内にはもう一人いた。暗がりから急に姿を現し、受付に話しかけ、下の方に赤黒い染みの出来た巾着袋を渡し、やりとりをしている。


「こいつが相手方の百人長の首だ」


「へぇ…百人長クラスを討ってくるとは…さすがは団長さんだねぇ。」


「よせ、団長なんて昔の話だ。今はただのフリーの傭兵だよ。」


二人はカウンター越しにやり取りしているので少年には気づいてないらしい。


これ以上ミスを重ねるわけにもいかないので、少年は息を潜めつつ、手近にあった本棚の影に身を隠す。


「はぁ…はぁ…」


これほど自分の吐息を大きく感じたのは人生で始めてだろう。少年は口を塞ぎつつ二人の様子をうかがった…。



受付と話をしているのは…見たこともないような大男だった。少年に背を向けている為、顔は見えないが筋骨隆々とした身体つきなのが服の上からでもみて取れる。そしてカウンターに立てかけられている馬鹿でかい大剣…。おそらく先ほどの会話も合わせて察するに、この大男は国軍に雇われているフリーの傭兵だろう。



いけるか?このままここにいてもいずれは見つかるし時間も惜しい。少年は気配を伺いながら着実に大男達の方へと足を進める。大男達の世間話に終わりが見え、いよいよ少年は覚悟を実行に移そうとしていたからである。


「じゃあこれ…こいつの首の報酬金」


受付の男がそういい、大男に重たそうな皮袋を渡そうとした所を少年は大男よりいち早くかすめとった。


ずしりと手に重い感覚を感じると少年は後ろから聞こえる怒号など気にせず、入り口の扉に体当たりをし、外に出る。しかし体当たりの際に皮袋を握っていた手がおろそかになり、皮袋の中身を半分ほどばらまいて少年は体制を崩し、雪の中にダイブする。


「中身を…拾わないと…。」


少年は中身の半分ほどになった皮袋を拾い上げ、白銀の雪の中にちりばめられた硬貨を大急ぎでかき集めようとする。

だが後ろから扉のあく音と怒号を聞き、少年は拾うのを止め、また走る。袋の中身が軽くなったのが幸いしてか、後ろから聞こえる声が徐々に小さくなる。少年は息を切らしながらスラム街の方へ走る。


既に時刻は昼をとっくに過ぎていた。


「もどったぜ」


軋む扉をあけて声をかけつつ自然と足がベッドへと向いた。マイカが流行り病になってからというもの、まずその容体を確認するのが習慣になっていた。


「マイカ、みてくれ!大金が入ったんだ!これでお前の病気は…」


少年は妹に話かける。異変を感じたのはその最中だった。妹の顔色がいつもより白いことに気づいたのだ。あれだけかいていた汗も引いていて、静かだ。…いや静かすぎる。 まるでベッドの上だけ時が止まっている様だった。


「マイカ…?」


少年が呼びかける…返事はない。


「おい…おい…マイカ?」


また返事はない。今度はマイカの身体を優しくゆさぶってみる。心臓の鼓動が大きな音を立てて加速し、声が出なくなる。


「マイカ…おいおきろよ。今から病院にいくんだ。お前は治るんだよ」


やっとのおもいで絞り出した声は枯れていて、自分の声では無い様だった。


「マイカッ!」


腕を伸ばした拍子に服の中にしまっていた皮袋が床に落ちる。硬貨のけたたましい音が合図だったかのように少年の不安は爆発した。


「マイカ…嘘だろ?」


これまで妹と二人だから感じなかった絶対的な孤独が容赦なく少年の心をえぐる。

少年はガタガタとふるえた。全身の力がぬけ、世界がゆがんでみえる。ベッドの横に崩れ落ちながらそれでも叫ばずにはいられなかった。


「嘘だ嘘だ嘘だッ!」


絶叫した。


「マイカ…マイカぁぁぁっ!」


その声さえもしんしんと降りしきる雪に吸収され、消えていく。世界がどこまでも虚ろで、残酷にみえた。


この日少年はひとりぼっちになった。


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