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夢のまとめ  作者: 七色
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8



 そして更に三日が経った。

 体を起こし、毎朝毎朝勝手にくっついて寝てる草詩を引っぺがし、そして机で寝ている斑の頬を叩いて、台所へ向かう。召使いたちが用意した朝飯を平らげ、だらだら過ごす。昼食を食べたら城下町を見回る。斑を拾って以来、飼い猫が見つからない以上の事件が起きない。夜はまた飯を食い、嫌がる草詩を無理矢理机に置いて判子を押させたりして、寝る。繰り返し。繰り返し。

 日々平和、大変結構だが、このままでは脳が腐る。


 今日も平和過ぎる見回りを終え遊馬が城へ戻ると、斑が庭の花に水をやっていた。


 「お帰りなさい」

 「ああ」


 常磐の庭だろうか-律儀なやつだな、と斑を見た遊馬が軽く驚いた。元々血色が良さそうなタイプではないが、斑の顔色の悪さは尋常ではなかった。


 「お前、どっか悪いのか」

 「え…ああ、クマ、ですか。大丈夫、寝れてないだけです。一度調べ始めると止まらなくて。この世界のこと、何か分かればと思って始めたんですけど」

 「何か分かったか」

 「何も分からないということが分かりました」


 なるほど、かける言葉も見つからん。遊馬があさっての方向を見ながら言葉を探していると、斑が力なく笑った。


 「大丈夫ですよ。まだ図書館の本あるし、もうちょっと頑張れます」

 「あれ全部読む気?止めた方がいいと思うよ」

 「どあ!?」

 

 いきなり現れた-いつからいたのか、草詩がだらり、と登場した。庭に置いてある椅子に雪崩れるように座り、気味悪く反対向きの顔でこちらを見ている。


 「何やってんだ」

 「前衛的なブリッジ」

 「いや、分からん」

 「まあ、いいじゃない。それより、斑君さ。図書館の本なら読破できないよ」

 「え…どうしてですか?」

 「俺、昔ここに来たばっかりの頃、暇で暇で、暇に慣れてなくて。本を読んでたんだけど、すぐに読み終わっちゃって。だから、本が永遠に増える魔法をかけたの。一冊読み終わったら、一冊増えるんだよ」

 「…はは…どうりで、全然…」


 人が、流れるようにゆっくり倒れるのを始めて見た。


 「斑!?」

 「あーあ」



 倒れてしまった斑を城内に運び、かけつけてきた召使い人形が淡々と言った。


 「寝不足ですね」

 「見たら分かるわ」

 「よし、りんごのウサギさん作ってくる。無意味に」

 「他に何かないのか」


 聞いてないし、張り切って走って行った草詩は無視し、遊馬は斑を見下ろした。こいつなりに元いた世界に帰るべく必死かもしれない。そんなことを考えていると、斑が目を覚ました。


 「あれ…」

 「倒れた。根詰め過ぎだ。なあ、帰りたいからって無茶するな。お前等くらいのときは寝るのが一番楽しいはずだろう。帰る方法は探させるし、お前がいやすいように世界を作…れないかもしれんが、まあ、努力はする。だから、あまり頑張りすぎるな」

 「…あの…貴方は帰りたくないんですか?」

 「ああ、別に」

 「………なんだ」


 ふ、と斑が落とすように笑い、ん、と遊馬が止まる。浮かんだ疑惑を打ち消そうとしたが、無駄だった。


 「おい、勘違いで恥を見る前提で聞くが」

 「はい」

 「まさかと思うが、俺たちの為に、調べていたのか」

 「はい」

 

 即答、照れる間もなかった。


 「なんで」

 「助けてくれたから」

 「いや、拾っただけだし。それに草詩も、面白そうだったら、例えお前がカエルの顔してても連れて帰ってきたぞ」

 「でも、嬉しかったから。本当です。あまり聞きたくない話かもしれませんが、僕いじめられてたんです。言いたくないくらい、しつこくされてました。だから、嬉しいんです。貴方にとって小さなことでも、僕にとっては大きいんです」


 少し昔のことを思い出した。まだ学生のときの話だ。帰り道、通った道で男子が絡まれていた。通り道に邪魔だったから結果的に助けたら、そいつは断っても断っても、こちらと会う度に荷物を持ちたがった。助かったから、嬉しかったからとずっと笑っていた。

 馬鹿だと思った。今の斑を見てもそう思う。けど、なら、その馬鹿に心を揺さぶられる自分は何になればいい。



 「へえ、徹夜でずっと調べてたんだ」

 「多分な。倒れ込むまでほぼ徹だ」

 「無駄なのにね」

 「無駄なのにな」


 あれから斑は話してすっきりしたのか、よく眠っている為、草詩の元へいった。図書館の話をして久しぶりに本が読みたくなった、と言いながら、彼の持つ本のページは少しも進んでいない。


 「草詩。本当に帰る手段はないのか」

 「だから、ないってば。僕、ここに何年いると思ってるの。一度も帰れたことないし、こっちに来たのだって、君が始めてだ。斑君が二人目。帰す方法分かってるなら、君はともかく斑君は帰してるよ」


 俺は帰す気ないんかい、ツッコミはとりあえず、置いておいた。


 「じゃあ、あいつはまた寝らんだろうが」

 「別にいいじゃん、寝たけりゃ寝るでしょう」 

 「俺が落ち着かん!」


 ぶー、と拗ねたような顔をした草詩が、少し考えてにっと笑った。


 「要は寝ればいいわけだ」

 「-?ああ」



 草詩の笑顔に不安を感じながらも、とりあえず廊下を歩いている。もうじき深夜になる。斑はまた起きているのだろうかと思っていると、ふとその斑が廊下に倒れ込んでいるのが見えた。踏むかと思った。

 また倒れているのかと思ったら、熟睡している。


 「ああ、効いてる効いてる」


 大きな枕を抱いた草詩が、あくびまじりに、眠る斑を満足げに見た。


 「魔法か」

 「こういうのは効くみたいだね。深夜になったら眠るようにした。朝までぐっすりだよ」

 

 なるほど、ちょっと卑怯な気はしたが、呑気に眠る斑を見たら、とりあえず解決したような気になった。


 「よし、僕らも寝よう」

 「斑を運ぶ…お前、たまには床に寝てくれ。狭い」

 「えぇー」



 「おはよう…ございます…」

 「おお、おは」

 

 珈琲を吹き飛ばすかと思った。まだ半分寝ぼけている斑は、寝癖が酷すぎて、鶏のとさかみたいになっていた。


 「すいません、寝坊して。すごくよく寝ました」

 「そうか、それは良かった」


 震えながら笑いをこらえていると、召使いがささっと斑の寝癖を直してやっていた。まだ寝ぼけているらしい斑は、ありがとう、と召使いに礼を入れながら、牛乳入り珈琲をふうふう冷ましていた。


 「そうだ…今日、お時間ありますか?ちょっと見て頂きたいものがあるんです」

 「ああ、別に大丈夫だが」


 つうか暇だし、遊馬がそう言うと斑はふにゃっと顔を崩して笑った。


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