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夢のまとめ  作者: 七色
4/33

4


 「僕と結婚してくれないかな」

 「…っ」


 思わず引いた身は3cmほどだったが、出来た心の距離は相当なものだった。笑う草詩の声が、妙に耳障りで。


 「別に、僕はホモじゃないし、別の穴にハッスルしてほしいわけでもないよ」

 「そこまで言ってねぇよ!じゃあ、何だ」

 「あのね。ただ僕の夫って肩書きになってくれれば、それでいいんだ。王の仕事なんてしなくていいし、この国の金も権力も君のものだよ。悪い話じゃないと思うけどなぁ」


 悪い話ではない。むしろいい話過ぎて猜疑心しか沸かない。


 「…割に合わない」


 シンプルに、感想を一言言うと、意外にも、というか何と言うか、ふむ、と草詩は一瞬考えた。


 「じゃあ、今日みたいに彼女を守って。ついでに僕も」

 「彼女?」

 「君が今日助けてくれた彼女」


 ああ、と遊馬はようやく、この世界で始めて会った人間のことを思い出した。危ういくらいに、美しく可愛らしい彼女を。


 そういやあいつはどこのどいつで、結婚式は何だったんだ、つうか何で俺が花婿役だったんだ、今更、諸々聞きたいことが出てきた。

 聞こうとしたその瞬間、重そうな扉の向こうから、小さいノックが聞こえた。


 「入っていいよ」

 「失礼致します」


 そう言って入ってきたのは、水色一色のレースドレスに包まれた先ほどの花嫁だった。こちらを見て遊馬と目が合うと、あっと小さく呟き、目の前でおじぎをした。


 「先ほどはありがとうございました。お加減はいかかですか」

 「あ、ああ…あんたは、その」


 途端に言葉に詰まる。こんな微妙な年頃の女の子との会話に、慣れていない。


 「大丈夫なのか」

 「はい、おかげさまで。ええと…失礼ですがあなた様は」

 「ユーマ。僕の旦那さん」


 回答に困る前に、その後の反応に困る上に誤った言葉を、草詩が勝手に返した。まだ引き受けるとも言ってないのにその言葉はないだろうと思っていたら、目の前の少女は、石化したように固まってしまっていた。


 「では…御子を授かれないのは…」

 「ちょっと色々あってね。黙っていたんだ。だから授かれないのは君のせいじゃないよ。馬鹿なこと考えてないで、今後も僕の為に祈りを続けてくれるかな」

 「…はい」


 落胆した様子ながら、少女は少しほっとしているようにも見えた。会釈をすると彼女は音をほとんど立てることなく部屋から去っていき、瞬間、草詩の顔を遊馬が蹴り上げようとするが、それはあっさり止められた。


「めんごめんご」

 「めんごじゃねぇよ…何だ。あの子供が関係あるのか」

 「察しがいいね」


 どっこいしょ、と草詩が遊馬の手を軽々と離れ、王座に座りなおした。力には少しー否かなり自信がある為、こうも簡単にあしらわれ続けたらさすがに落ち込まざるをえなかった。


 「この国は、魔法が全てなんだ。魔法が強いものが一番偉いんだよ。けど不思議と魔法は女子にしか使えなくてね。国一の魔法使いが男じゃ洒落にならないでしょ。だから僕は女ってことにしてんの。そして…強い魔法使いは、女同士からしか生まれない」

 「は…」

 「今、女同士のセックス想像したでしょ、えっち」

 

 また思わず蹴り飛ばすが、また笑いながら避けられた。


 「巫女さん同士が祈りをささげ続けると、子が宿る。僕の跡取りの為に、そりゃあたくさんの巫女が来たけど、どの子も駄目だった。そりゃそうだ、僕は男だからね。あの子は、まだ14歳なんだけど、最強の巫女として数年前からここにいて、ずっと祈りを捧げてくれてるんだけどね…なかなか祈りが通じないものだから、とうとう巫女はあの子-常磐だけになっちゃった」


 軽く、驚いた。この何もかもどうでも良さそうな男にも、多少、人を哀れむ気持ちがあるのか。


 「あの子、そろそろ限界みたいで、数日前から自殺未遂騒ぎが続いてさ。里に返して死なれても目覚め悪いし、ここで死なれてももっとヤだしね」


 数秒前驚いた自分を即効呪った遊馬を、にっと笑った草詩が見上げた。


 「あと質問は」

 「そうだな…昼間の結婚式はどういうことだ」

 「ああ、あれはね。なかなか子を授からないから、国中が業を煮やして、常盤を王族付き巫女から下ろそうとする動きが見えてね。じゃあもう結婚式でもとりあえず挙げて、示しつけといたほうがいいなー、って思ったんだけど。僕が出る許可は下りなかった。さすがに危ないからって」

 「それで、影武者か」

 「そう。君とは別の人だったんだけどね」

 「顔でばれなかったのか」

 「僕はほら、国で一番の魔法使いだから。顔くらい変わってても、誰もびっくりしないよ」


 なるほど、色々ー何も分かってないような気もするが、まあ大まかな疑問は解決した。あのとき、もう既に常盤は自分を限界まで追い詰めていたんだろう。式を挙げたところで、子が宿る保証はないだろうから。


 「…?そういや、元の替え玉はどうしたんだ」

 「ああ、まあ元々いてもいなくても変わらない奴だったから、見つからなくても構わないよ」


 それも酷い言い草だが、もうこれ以上異世界で同情相手が増えても厄介なだけだと見切りをつけた。

 ん。


 「…どうしたの、変な顔して」

 「…別に」

 後悔も、何もかも遅すぎたかもしれない。既に異世界で、何かあったら、それなりに怒りそうな存在が既に複数いることに、遊馬は頭を抱えた。



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